浅葱色に憧れて


「はい〜!カットお〜!」
左之助演じる浪人が刀を鞘に納めると、カメラがストップした。
セットのはじっこで、わくわくどきどきしながら左之助をじ〜っと見つめていた
ジョシュア剣心はほ〜っとため息をつく。
ああ、やっぱりさのって、かっこいいんだ…と。


「どうだ?面白いか?剣心」
「はい〜、面白いでゴザルんです!最高だね、さのは!」

ここは国営TVの時代劇セットの撮影現場。
ただ今放映中の「新撰組」を撮っている。
初めて目にするTVドラマのセット。
テレビで見るあの、幕末の建物やらなんやらが面白くないはずがない。
まして、ジョシュア剣心にとっては憧れの「サムライワールド」
刀を差したサムライ達が、わんさかといる。
ジョシュア剣心のすぐ傍を通るのだ。
それも、リュックやらを提げて、ケータイなどを手に持って(笑)…♪
もう、たまらない面白さだった。

「ねえ、あのサムライ役のヒト、誰?」
「えっとな〜」
「で?もうすぐ死ぬの?刀で斬られて…?」
「あはは!まだ先だと思うがな〜」
「ああ、早く刀を抜かないかなあ?
沖田総司さんってどのヒトでゴザルんですかあ?」
「ほら…あの…ふじわら…」
ジョシュアはもうその先を聞かずに、ささっと休憩中の藤原君に近づいて…
「おお?け、剣心!」
左之助は慌てたが、もう剣心はにっこりと笑って藤原君の前にちゃっかりと…
沖田総司役の藤原君は、だんだら模様の浅葱色の羽織を着て
ペットボトルのお茶を飲んでいた。
「あ、あの…コンニチワでゴザル…せ、せっしゃはあ、けんしんと言いまス」
さっと手を出し、握手を求める。
藤原君も慌てて手を差し出した。
「ああ?こ、こんにちわ」
ハーフ顔の、金髪に近い茶色の長い髪、はしばみ色の瞳、さくらんぼの唇
この場にそぐわない(カワイイ)登場人物に驚く藤原君。
でも咄嗟に、微笑み返すところは、さすがに俳優…♪
「あ、あの…オキタが好きでゴザルんですけど…」
「あ?そう?沖田っていいよね」
「はい〜!かっこいいでゴザルんです!ミスターフジワラもかっこいいです!
憧れマス〜」
「あ…そう…どうもありがとう…て?ところで君は誰?」
「あの…サノスケ・サガラのともだち…いや、コイビトで…」
「ええ?」
「ち、違うんです、藤原さん。どうも失礼いたしました!」(byさの)
「あ?はいい?」
左之助は大慌てでジョシュア剣心の腕を取って逃げる。
「ば、ばか!なに言ってるんだよ!そんなこと正直に言わなくてもいいんだよ。
それに藤原さんが気を悪くしたらどうするんだ?
せっかくの休憩中だったというのによ、お前ったら…!」
誰も近くにいない所で左之助は大きな声で剣心を叱り飛ばした。
「だって…(泣)カメラ回っている時じゃ話しかけられないでゴザル…
だから今、行ったのに…」
剣心は非常に落ち込んで下を向いた。
今にも泣き出しそうな顔つきだ…
「あ…ごめん…大きな声出して…」
「ぐすん、ぐすん…」
「なあ…静かに見ていろよ…でないとオレ困るよ…(汗)」
「ぐすん…分かったでゴザルんです…行ってらっしゃい…」
そろそろ再開だぞ〜という声を聞いた剣心は、無理に笑顔を作って
左之助を送り出した。
左之助は後ろ髪を引かれる思いがしたが、そっと微笑むとセットへ向かって
歩いていった。

「ふん…さののばか…」
泣きマネでした。

「あら?こんなとこで何しているの?」
「はいい?」
見たことも無い女性がジョシュアのすぐ傍に立っていた。
「メイクもまだ?早く着替えないとね。さ、こっちよ」
「ええ?せっしゃ…?」
「ほらあ、ぐずぐずしないの。メイク室はこっちなの!」
その知らない女性に手を引っ張られて、ジョシュア剣心は連れ去られてしまった…
あらら?


次のシーンでは、その藤原君と左之助は一緒の場があった。
「ですから…そういうふうに土方さんは仰るので…お引取りを」
「あんだと?アイツめ…覚えてやがれ!と伝えろ!」
「はい。かしこまりました」
左之助がすごんで沖田を睨む。
ここでカ〜ット!


「さっきはすみません…藤原さん…あれ、オレの友人なんです」
左之助は頭を掻き掻き、藤原君に話しかけた。
「ああ、さっきの。彼、ハーフかなんか?」
「ええ…日本人のお母さんだそうです。
アメリカから来ていて…それで、映画『ラストサムライ』観てから
もうもう日本の武士道に心酔してしまったみたいで…
サムライ大好きとか言って…新撰組ナマで見たいって…」
「ああ、そうなんだ!アレいい映画だったよね。
そう、新撰組のこと、知っているんだ。にこにこ」
「はい…そしたらおもちゃの剣とか買って振り回したり…もう人迷惑なんですけど」
「なんで?かわいいじゃないの。彼…」
「あ?は、はい!かわいいです!」
左之助はつい本音で…♪
「どうもすみませんでしたあ〜」
左之助は照れて走って逃げた。


ところが…?
剣心がいない。
スタジオの中を探し回る。
どこにも見当たらなかった。
え?どこ行ったんだ?
おい…この広いNHKスタジオの中、迷子になったらどうするんだよ…!
カタコト日本語しか出来ない、それも変なゴザル言葉を使うハーフ剣心が
迷ってうろうろして人迷惑になっているのを想像して
左之助は背中に冷たい汗が流れた…
しまった…
やっぱり連れて来るんじゃなかった…
それに、怒鳴っちまったよ…さっき…!
ど、どうしよう…!
撮影はまだこの先もある。
剣心を探しに行くことは無理だ。
どうしよう〜〜!!



「ほらあ、左之助クン、そこをどいてくれたまえでゴザルんです」
「ええ?け、けんしん〜?」
左之助は驚いて振り向く。
そこには、すっかりと着物姿に着替えた剣心が立っていた。
きちんと髪も結い上げて、紅い着物に袴、刀まで差していた。
「け、剣心!どうしたんだ?その衣装はああ!」
「あのね…着せてくれたの。親切なお姉さんが…」
と、剣心は後ろの女性に振り向いた。
「ごめんなさいね〜、あたしったら間違えちゃって…
ほら、新撰組に出る子だと思ったのよ。だから慌てて着物着せちゃって。
だって否定しないんだもの、この子。
なんだか嬉しそうだったし」

左之助は青くなる。
そりゃ嬉しいはずだ…
憧れのサムライ衣装だからな。

「でも良く見たらこの子、ハーフじゃない?そんな子の登場があるなんて
聞いていなかったし…おかしいなあ?とは思ったんだけどね」
横で剣心は嬉しそうに微笑む。
「でもキモノ着せてくれたの〜♪おもちゃの刀だけど、これ、結構重いの」
脇に差した刀剣をがちゃがちゃと鳴らした。
「かわいいしさ…ま、いいかってね♪メイクの子に頼んだら、もう大喜びで
化粧してくれてね、ほら、なかなかいいでしょ?」
よく見ると、剣心は綺麗に肌色を塗られている。
ほんのりとした頬紅、ピンクの口紅も似合っている。
金色の睫毛が光って、それはかわいらしく出来上がっていた。
馬尻頭(ポニーテールスタイル)も非常にいい!
白いうなじが見えて…!

女の子達がハーフ剣心のかわいさにきゃあきゃあ言いながらメイクしたり
着物着せたりしている様子が目に浮かんだ。
そしてそれをにこにこと嬉しそうに笑うジョシュア剣心も…(汗)

「でね、せっかくだから、さのにも見せたいって言ったの。
そしたらまたここへ連れてきてくれたの…日本の女性は優しいね」
「まあ、かわいいこと言うのね♪」
「どうもアリガトウでゴザルんです…ペコリ」
「あはは!かわいい〜〜♪」
反対に左之助は呆れる。
この剣心をどうしてくれようか…


「どう?さの…似合うでゴザルんですか?せっしゃ…」
くるりと剣心が回転した。
ポニーテールが揺れて、鼻先を掠めた。
しかしかわいい。
剣心は満面の笑みだ。
ここで怒ってもなあ…と思ったら、気が楽になった左之助だった。
「まあ…な」
「え?ほんとでゴザルんですか?似合う?」
「ああ…思ったよりも似合うじゃないか。
やっぱりお前には、半分でも日本人の血が流れているんだな」
剣心は着物の袖を面白そうに引っ張る。
「なんだか…フィットするんだよね…これ…」
「そりゃそうだな。お前のママの祖先の祖先が、そういう着物着て
この時代に生きていたかもしれないんだから…」
「さのおお!」
剣心が左之助に飛びついた。
「ああっとおお!カタナ差してるんでゴザル…」
刀が邪魔でなかなか接近できない。
「けっこう…ムズカシイ…サムライ…えへへ」
剣心はご満悦。
「でもよ、色白くて細くって、サムライっぽくないなあ。
どこかの若殿さまみたいだぜ?へんなの…」
「へんでもいいや…嬉しいの、初めてのキモノ…ハカマ…」


そんなふたりの様子を遠くから見ていた藤原君は、ちょうど居合わせた三谷さんにそっと耳打ちする。
「ねえ?あの浪人と若殿ふうのハーフの子、いいと思いません?
いかにもデキているって感じしますよね?」(す、するどいかも?)
三谷さんはじ〜っとふたりを見つめて…
「そうだな。ああいう若殿の登場もいいかもなあ…
あの浪人にはさっさと死んでもらって、お前、沖田とイイ仲で出すってのは
どうだ?」
「うん、いいですね〜♪俺、あの子とだったらいいなあ。
三谷さん、そういうの、書いて下さいね?」
含み笑いをもらす、三谷さんと藤原君でした…




というわけで、左之助役の浪人はその後まもなく死亡することになったのだ。
ジョシュアと沖田の「イイ仲」に設定したエピソードは
三谷さんと藤原君を大いに喜ばせたが、
話の進行に合わない、と即座に却下されたのだが…


ジョシュア剣心はちゃっかりとサムライ姿を写真に撮ってもらった。
もちろんその横には左之助が、黒い着物姿で…
満面の笑みのジョシュア剣心と、デキる男ふう浪人姿の左之助…

その写真はいつまでも、
左之助の部屋に飾られることになる。



                     城みづき



        
ジョシュア剣心&浪人ふう左之助のショット♪


        どうかな?ほんとに若殿みたいな剣心です♪
        ジョシュアってば、良かったねえ!