「浅葱色の出会い」 後編


カキーンと刀がかち合う音がする。
予想もしなかった強い力で押され、足を踏ん張るジョシュア。
く!刀ってすごい力がいるんだ…!
やっとのことで浪士の刀を防いでいる。
ギリギリと迫ってくる。
気持ちの悪い顔がどんどん近づいて、ジョシュアは耐えられない。
うへえ…ヤダ。趣味じゃない…!
ジョシュアも渾身の力で維持するが…

困ったでゴザルんです…!
いくら防いでも、こちらからは斬れないんデス〜!
オキタ君、これ、おもちゃの刀なんですよお…(泣)
今更そんなコト、言えないじゃないですか!
ああ、どうしよう〜!Oh、my God!

「えええい!」
ジュシュアは力任せに思いっきり払った。
浪士が吹っ飛ぶ。
思いのほか強い力だったらしく、浪士の刀が折れた。
尻モチをついて、ジョシュアと折れた刀を交互に見て震えている。
あっけにとられる浪士たち。
おお?とジョシュアも驚く。
すご…!
さすがは日本の、最新ハイテクノロジー。
本物の鉄の刀より、おもちゃの刀に使われる素材の方が硬いとは!
浪士たちは、この、可愛らしい剣士の予想外の力に怯えた。
なんと言ってもエラく硬い刀を持っているぞ!

「ヘイ〜、カモ〜ン!
あ、日本語で言わなくちゃ、さあ〜、来いい!」
ぶんぶんと刀を振り回す。
調子に乗ったジョシュアは、浪士たちを挑発してしまった。
「剣心くん…大丈夫?」
後ろの沖田がジョシュアの袴を引っ張った。
顔を覗くと、とても青白い。
これは重症だ。
「ダイジョブ!任せて!」
さっとジョシュアはまた構える。
今度はフェンシングのように、突きのスタイルで進んだ。
「うわ!」と、慌てて浪士たちが引っ込んだ。
えへへ…ハイスクールの時にやったフェンシング、得意だったんだよネ。
沖田もそのジョシュアの型を見て驚いた。
沖田もその腕に覚え有り…の「三段突き」を得意としている。
それをジュシュアが目の前でやっているではないか。
「すごい…!剣心くん!」
だが、そこまでだった。
背に庇った沖田の背後にもジョシュアの脇にも浪士たちが取り囲んだのだ。
多勢に無勢。
やはり無理があるのだ。
沖田も咳き込みながら、剣を握りしめ直す。
「どうやらこれで終いのようだねえ、外国のネコちゃん♪
かわいかったけどねえ…いひひ」
「何を!シット!(英語でコナクソ!という意味)」
「えへへ…さて、壬生の狼と外国ネコ、どちらから料理するかねえ?なあ?」
浪士たちは皆揃って下卑に笑った。

「やい!
此処にももう一匹壬生狼が腹空かしているんだがね?」
その声に浪士たちがさっと振り向く。
「土方さん!」
沖田が叫んだ。
闇に光る、刺客の目。
長身痩躯の男。
ああ、この人が土方さん…の、ホンモノさん…ですネ?
うわ〜、ものすごくいい男だ。
超ハンサム!
ざんばらな長い髪を後ろで束ね、白地に黒のダンダラ。
それは新撰組の最高幹部であることを表しているのだ。
そして、圧倒されるような精悍な面構え。
更に今は睨みを利かせながら、口元は笑っている…という、
怖い怖いお兄さんになっている!
この不敵な笑い、とても強そうだぞ。
背もここの誰よりも高い。

うへえ…これなら安心♪
ジョシュアはほっと心の中で息をはいた。
が、表情は変えない。
敵に隙を見せてはいけないのだ。


「誰だ!」
「新撰組副長、土方歳三だ!」
浪士たちがざああっと狼狽して後ずさる。
こいつが、あの土方か!
なんという男…!
「さて…うちの狼を可愛がってくれた礼をさせてもらおうか…ね!」
と言うが早いが、土方は疾風のごとく、浪士たちの間を走りぬけ
ささっとジョシュアと沖田の前に立ち、鮮やかに三尺の長剣を鞘走る。
そのあまりの素早さに敵もジョシュアも仰天した。
土方の得意の喧嘩戦法である。
あっという間に形勢が逆転した。
天然理心流の平正眼の構え。
土方のその気迫に圧されて、浪士たちは動くことが出来ない。
「外国のネコさん…沖田を守ってくれてありがとよ。(ここまで小声)
助太刀いたす!総司!(これは大声)」
「はい!」
さっきまでの沖田の様子からは想像できないほどの、裂帛の気合が飛んだ。
土方と沖田は背中合わせに闘っている。
ジョシュアはジャマにならないように、そっと脇に(ちゃっかりと)どいていた(笑)
絶対の味方を得て、心強くなったのだろう。
沖田の動きも冴える。
討ってくる輩たちを、一刀打に斃すふたり。一打必殺。
土方の剣筋はとても見事で動きに無駄がない。
針の入る隙間もないほどの、張り詰めた気迫。
落とした腰、地上すれすれから舞い上がる刀風。
黒い山形ザンギリは浪士達には不気味にしか写らない。
そしてそれにも負けず劣らずの沖田の剣筋。
翻る浅葱色の羽織。
長いポニーテールがそれこそ駿馬の尾のように流れる。
こちらも得意の三段突きが出た。
おお!オキタもフェンシングのスタイル、上手だ〜!
文字通り、ばっさばっさと斃していく。
余りの腕の違いに、残り二人は狼狽し逃げ出した。
「覚えてろ!土方あ!」
「へんだ!地獄で会おうぜ」


刀を血払いすると、さっと刀を鞘に納める。
沖田は緊張が取れたからか、その場にしゃがみこんでしまった。
「総司!大丈夫か?」
「ああ…土方…さん…」
沖田は肩で息をしている。
とても苦しそうだ。
土方は沖田を抱きかかえるようにしている。
先ほどの怖いお兄さんにはとても見えない。
心底、沖田を心配し、介抱している。
「すみません…お役に立てなくて…で?捕まえましたか?」
「ああ、生け捕りにした。今頃永倉が吐かせている頃だ。
会合場所はやはり狙ったとおりだったぜ。
きっと密会は『……』で行われるだろう」
「そうです…か…良かった…」
「お前が…気がかりで…!」
土方が沖田をぎゅっと抱きしめた。
沖田もしっかりと土方に抱きつく。
あれれ…れ!
ひょっとして、このふたり?…そうなんですね?そうなんですね!
うわ〜、そういうことなの!そういうことなのね!
ジョシュアはひとりゴチる。
なあ〜んだあ、オキタには、ちゃんと「そういう人」いたんだ…♪
えへへ、なんだかウレシイでゴザルんですうう♪
拙者、オジャマのようでゴザルんですけど…にこにこ。

「あ…土方さん。この方にお礼を。
わたし、この方に助けられたのです!」
やっとボクに気がついてくれマシタ。
「え?助けてマセン。オキタさん。助けられたの、拙者でゴザルんです」
ナンだ?こいつは…?メリケン人らしいがヘンな日本語を話すじゃないか…?
怪しい…!
土方はじっとジョシュアを見て考え込む。
その顔がとても恐ろしくて、ジョシュアは慌てて取り繕う。
「拙者はジョシュア剣心デス…怪しいモノではありまセン〜」
(充分怪しいですよ、ジョシュア…ここで土方に斬られてもおかしくないよ?)
「土方さん、この方、とても強いんです。
咳き込んでいたところを介抱してもらってそして、刀を抜いて守ってくれたのです!」
沖田が慌てて取りなすと、やっと土方の表情が変わった。
「それは…!沖田が世話になり申した…
ご挨拶が後回しになり失礼を…
手前は新撰組局長付き副長を務める、土方歳三でござる」
土方が深々と頭を下げる。
ジョシュアは慌てる
「NO〜!ヒジカタサン、あたま上げてクダサイでゴザルんです〜」
ひえええ…かっこいい…
サムライでござるんですねえ〜♪とジョシュアは嬉しい。
「オキタさん…もうダイジョブでゴザルんですか?」
「はい、土方さんも来てくれました。
一緒に帰りますので、大丈夫です。
それより剣心くんをお送りしましょう」
「ハイ…ここからえい!とジャンプすればきっと帰れますからダイジョブです」
「???」
ダンダラふたりには意味不明だ。
ジョシュアはそんな気がしていた。
もう夢のような、いや夢は終わりに近づいたのだ。
オキタにもヒジカタさんが来てくれたし、もうダイジョブね♪


「オキタさん、今度はぜひアメリカへ!
バニーガールがいっぱいのボクのカジノへ来てね。
案内してあげマスから〜♪
ボクのカード捌きを見て欲しいな。
そして銃を撃つ姿もね」
注)沖田さん、今度はぜひメリケンへ!
  拙者が案内してあげます。
  うさぎの仲居がいっぱいのボクのお見世へ連れていってあげますから。
  サイコロ振り、見せてあげます!
  銃もね。

「うん!行きたいな。ぜひ連れて行って下さい。
そしてじょしゅあ剣心君の銃を撃つ勇姿も見てみたいよ。
そしてサイコロ振りの様子もね…かわいいうさぎの仲居さん達にも会いたいな」
「はいい、ぜひいらして下さいネ」
「分かった!武士の約束だ」
沖田は刀の鍔元をきんと鳴らす。
これは古来から、日本の武士が何か約束事をするときに、
「武士に二言は無い」と誓う所作である。
(金打=きんちょう、と読む)
先日この所作の美しさと意味を左之助から教えてもらったばかりのジョシュアは
感激した。
この人が…約束してくれている…
本気で。

だがジョシュアも沖田も、それが不可能であることは充分知っての事だった。
二度とこの時代に来ることはないだろう、現代に生きるジョシュア剣心。
自分の命の限界を、もう悟ってしまっている沖田。
束の間の、だけれど非常に濃い、素晴らしい時間を共有した。
それだけは確かで、ふたりの間に暖かい友情が通ったのだ。

ジョシュアは手を差し出す。
「オキタさん、、握り返してクダサイ。
これは『会えてウレシイ、君の友情に感謝』というイミの、
アメリカの挨拶なんでゴザルんですよ…」
沖田はにこりと笑ってジョシュア剣心の手を握りしめる。
「うん。ありがとう。君も元気で!」
「ハイ、オキタも…」
しばし目が合う。

ああ、必ずや君よ、幸福に。

ふたりは穏やかに笑った。
それを傍から見ていた土方は、不思議そうな顔をしていたが
二人の間に流れる友情を、微妙に感じ取った様子だ。
…?うさぎの仲居?サイコロ振り?なんだコイツは?
だが、彼も誘われて微笑む。
「さあ…そこまで送ろう、剣心君。気をつけて行き給え」
「ハイ、オキタくんをどぞヨロシク♪」
「承知した」
土方も、鮮やかに鍔元を打ち鳴らす。
ふたりはにこりと笑った。
そして土方も手を差し出す。
「総司を…守ってくれてありがとう…」
怖そうな男の、それは優しい声であった。
ジュシュアは迷うことなく、土方と握手した。
沖田と違った、大きな大きな、暖かい手だった。

ジョシュアは嬉しくなった。
きっとこのヒジカタという男は、オキタを守ってくれるだろう。
寂しくて泣きたくなった時にも、きっと優しく彼を抱きしめてくれるに違いない。
そしてオキタをいつも、いつまでも愛してくれるだろう…と。

ああ、さのに会いたい。
ボクのさのに。
さあ、帰ろう。
きっとさのが心配しているに違いないもの。
「じゃあね〜、See you again!」
と手を振るとさっと走り出した。
すると不思議な光がジョシュアを包んだ。
ぽおっと…
そしてそれきり、ジョシュアの姿は見えなくなった。


「おい…消えたように見えなかったか?」
「…はい…?」
ふたりは首をかしげる。
「だがなんだ?あいつ…前からの知り合いか?」
「ううん…違いますよ。さっき会ったばかりです」
「気がついていたか?
薄い化粧をしていたが、あの頬の傷は刀傷だ」
「はい…十字の…」
「何かあったんだろうな…
刃傷沙汰になるような事が…
おんながらみかもな。
だがあの美貌ではオトコがらみかもしれんな♪」
「…!土方さん、なんか喜んでません?にこにこ」
「そうかあ?まあ…だな!(コホン)
だが…なかなかの気合だったな。
メリケン人も結構やるものだ。
あの気合は俺も勝てネエかもしれん」
「メリケンで銃を撃っているそうですよ」
「なに?銃!」
「はい、大きな旅籠の用心棒だそうです」
「…!敵でなくて良かったな」
「はい(にっこり)そうですね〜、そうですよ。
でもね、初めて会った気がしないやつでしたよ?
妙に気があってね、楽しく会話出来たんです。
きっと…何処かで会っているんだ。
前の時代か…それとも先の時代か…でね」
「なんだ?それは!分からんなあ!」
「土方さんってば、ほんとに現実主義なんだから。
喧嘩ばかりしているから、人を素直に信じられないのでしょ?
でもボクは信じますよ。
人と人との縁は、そう簡単なものじゃなくて、こう…」
沖田が星空を見上げる。
「出会うべき時に出会う…
長さとかそんなものじゃなくて、短くたって心に響く出会いがあるんだ」
「ふむ…?」
「だからあ!わたしと土方さんみたいなモノですよ♪
天の星ほどの人々の中で、わたしたちは出会うべくして出会ったのですからネ。
あなたは…わたしにとって、運命の人だもの…!」
「…総司…!」


土方と沖田は、ジョシュア剣心の消えた辺りを、
ずっと見守っていた…



「ほれ!剣心、起きろ!
風邪ひくぞ?こらあ〜!」
左之助がジョシュアをゆさゆさと揺さぶる。
ジョシュア剣心は畳に寝転んでいたのだ。
「ハイイイ〜!え?」
「何がSee you againだよ?夢見てたのか?」
「ああ〜、さのだ!さのお〜!」
剣心は左之助に思いっきり抱きついた。
ああ、さのだ、さのだ。
ここは東京だ、現代でゴザルんですう〜!
ああ〜、生きて帰れたでゴザルんですね〜!
やっぱり「夢」見てたのかなあ?
でも…刀を握ったあの感触が、手にこんなに生々しく残っている…?
でもでもサ…さのったら、もうちょっと優しく起こしてくれても
イイではないでショか!む!

「……どうした?怖い夢でも見ていたのか?」
左之助は優しく剣心の背を撫でた。
剣心は左之助の大きな手と暖かい胸に安心する。
ここが…ボクの居場所だ…と。
ムカついていたのも忘れて左之助に抱きついている。

「うん…ボクね、オキタソウジとヒジカタトシゾウに会って来たんでゴザルんです」
「ああ?何寝ぼけてやがる。
『新選組』見てたんだろ?ちゃっかりその中で遊んできたのか?にやにや」
「違うでゴザル〜!ホンモノのふたりに会ったのでゴザルんですよ」
「なに?本物だとお?くっく…」
左之助は笑い出してしまった。
「ホントでゴザルんですよ?かっこよかったの!オキタ!ヒジカタ!」
「ああ、そうかい。
そりゃあすごかったなあ?刀振り回していたか?」
「ハイ!フテイロウシを取り締まるとかなんとか言ってマシタ。
大きなミーティングが有るって。何でショ?ソレ…」
「ああ、池田屋のことだな?
もう大河そこまで行ったか?いやまだだろう?ん?」
左之助は訝しがる。
まだそこまで話は進んでいないはずだがなあ?
「ふたりとも、かっこよかったでゴザルよ?
さすがにホンモノはすごいでゴザルんです!
たくさん居たヘンテコサムライをね、ばっさばっさと斬って、そして…」
ジョシュアの言い方は、なんだか本当にあの時代にタイムスリップでもしてきたかのように斬りあいの場面を的確に話す。
どこでそんなの読んだんだ?
しかしオレの本は漢字がいっぱいで剣心には読めないだろうに?
勘弁してくれよ…もう。
剣心のサムライかぶれはどこまで行くのやら…
「ヘンテコサムライはやられちゃったよ。
血がいっぱい出て…」
「うん…?」(妙だぞ?)
左之助はここいら辺で剣心が体験してきたことは単なる夢でなく
本当に新撰組の闘いの場に居合わせたらしい?まさか!
夢にしてはつじつまが合いすぎだぞ?
とても素直に信じられないことだがひょっとして、
何かのきっかけが剣心をあの時代の実体験に飛ばしてくれたのかもしれなかった。
そうだとしたら、剣心の「本気」のサムライかぶれも大したものじゃないか!と
左之助は悩みながらも剣心の言うことを信じてやろうか?という気になってくる。
まあ…どうせ「夢」かなんか、かもしれないがね。
話、合わせてやるか♪

「オキタ…シゴト、ちょっと辛そうでシタ…
人、殺してもやっていていいのかな?って」
「…うん…そうだな。
お前だってそうだろ?
好きで人を撃っているわけじゃない」
「うん…でもボクのベレッタで少しでも人、助けられたらって。
自分を守れたら…って。
ヒコがそういうチカラ付けてくれて、育ててくれて」
「だな。人を救うために人を狙うんだ。
ヘンかもしれないが、そういうことなんだ。
特にあの時代の「新撰組」は…な。
人も世界も、大きく変わった時だったんだ。
そういう時代に生まれて、自分の信じた正義のために、闘った…」
「ハイ…シンセングミ、おなじ。
自分の信じた道、アルいて…そして」
「うん…」
ふたりは頷きあった。

「でもネ、オキタが咳していてね、辛そうだったんでゴザルの。
でね、拙者が背中さすってあげたの」
剣心が知っていることは大河のままであり、大河の中の藤原君はまだ
喀血前だ。
沖田総司が肺結核でのちに死んでしまうことを、剣心は知らないはずだ。
やはり「夢」ではないのか?

「あのな、沖田はな、剣心…」
「なに?」

だが左之助は言うのをやめた。
どうせもうすぐ分かることである。
新撰組の末路も、大河を見ていれば分かることだ。
今話して聞かせて、傷つけることもないだろう。
剣心が見た夢が、もしも本当のことならば、剣心の感じた新撰組のイメージを
ここであえて壊すこともないだろうと思うのだ。
「そうか…咳していたんだね?」
「ハイ…でもヒジカタさんが介抱してマシタ…優しかったデスよ?」
「そうか…良かったな。やっぱりウワサは本当だったんだ」
「ナニ?ウワサ?」
「あいつらがデキているってことだよ」
「うひゃあ♪やっぱりね!うん、ソレ確かでゴザルんですよ?」
「そうか〜、いひひ。オレ達と同じかあ♪」
「抱きついていたでゴザルんですよ?幸せそうデシタ」
とんでもないことを喜んでいるふたりである。
(もちろんコレは史実ではなく、城の勝手な作り事でございますれば!)

「オキタ…早く良くなって欲しいな…
ヒジカタもとても心配そうだったもの…」

左之助は思う。
小さい頃からずっと近藤の元で修業して剣を身に付けた沖田は
その天性の腕を生かして新撰組の最も強い使い手となる。
その大事な大事な沖田を、当時死病と恐れられた結核で失うという事実に
どんなに土方が狼狽し悔しがっただろうか。
左之助は大河に出演することもあり、たくさんの新撰組関連の本を読んだ。
その本のどれにも、沖田と土方の篤い友情が描かれている。
冗談めいた言葉のやりとりにも、それは他の隊士たちに対する時とは違う、
心から相手を気遣う優しさと確固たる信頼が伺えた。


  わたしはどこまでも土方さんについて行く。
  振り向けばいつもそこに沖田がいる。

これが結核に冒された沖田を救い、新撰組を率いる土方の力になった。
沖田が死しても先、土方の最大の力に。

毎日生きるか死ぬかの戦いの中でも、ふたりは互いを信じ愛し合い、
支えあったのだろう。

いま、目の前の剣心がそんな病気だったらどうだろう?と思ってしまい
左之助はぎゅっと胸が締め付けられた。
いやだ!
そんなことは考えたくない。

いつも横に居て自分を助け、笑ってくれていた可愛いコイツ。
そんなコイツを失うだと?

いったいどんな思いで病みやつれていく沖田を見ただろう。
沖田が明るく振舞えば振舞うほど、失う日を思ってやりきれなくなっただろう。
その身体を抱きしめる力を加減するようになってからの土方は
どんなに沖田を愛しく思っただろうか。

土方の思いを想像するだけで、左之助は耐えられなくなってしまった。
「剣心…!」
剣心への愛しさで胸がいっぱいになる。
「俺のとこから…放れるなよ。
どこまでも一緒だからな…」
「ハイ…さの…」
ふたりは思いっきり抱き合った。
剣心も思う。
この人とずっと一緒に居たい。
さのを愛して、愛されていたい、放れたくない。
オキタもきっと思ってる。
ヒジカタとずっと一緒に居たいって。
神様、そんなオキタの願い、かなえてクダサイ…

そうだ…!
願いをかなえるのなら…!あれだ!
「さの!コトシもタナバタやるんでショ?」
急に剣心が叫んだ。
「ああ?笹飾り、また作るか?」
「ハイでゴザルんです。
拙者、オキタがずっとヒジカタと一緒に居られますように…って書くんでゴザルんです!」
左之助は胸が痛む。
だが言葉にせずに、
「そうだな。オレも書くぞ。
剣心とずっと一緒に居られますようにってな」
「それと、『さのにいい役がまた来ますように…出来ればジダイゲキ』とも♪」
「『剣心がたくさんの生徒に恵まれますように…』ほんとはイヤだけどよ。
あ、それと『ケン○ッキーたくさん喰いてエ』とも書くぜ。
ああ、現代生まれで良かったな〜
旨い物がいっぱいだあ〜♪」
「イジきたない…!きっとそんなのかなえられないでゴザルんですよ?
たくさん買えるおカネ、持っていないクセに…」
左之助はがははと笑った後、じっと剣心を見る。
そしてジーンズのポケットをごそごそとさぐる。
「ちょっと遅くなっちまったが…誕生日のプレゼントに…これ」
左之助はきらりと輝くシルバーリングを差し出した。
「オレさ…大河に出られると分かった時から…
嬉しくってよ、出演料でさ、何か記念になるものを買おうって決めてたんだ。
でな、先日給料が出たんで…これお前に」
「え…?」
左之助が驚いている剣心の左手を握り、薬指にそっとはめた。
「さの…これってステディリング…?」
剣心が左之助を見上げる。
目が涙でうるうるとしている。
「まあ、そんな感じかな?えへへ。
で、オレも」
左之助は左手の薬指を見せる。
彼にも同じ銀色の指輪が…!
「さの…!」
「だからさ…お前が会ってきた沖田と土方のおかげってことかな?
彼らのおかげでこの指輪が買えたんだもんなあ」
「うん、うん…そう…だネ…」
「していてくれよ、その指輪」
「うん…さの…」
剣心が左之助に飛びつく。
「ウレシイでゴザルんです…さの…とっても!」
「剣心…」
熱いくちづけを交わす。
何度も何度も相手の唇を奪い取る。
コイツの全ては俺のものだ。

しばしその余韻を楽しんでから剣心が言った。
「オキタたちにも…こういうモノがあったら良かったのになあ…」
薬指のリングを嬉しそうに眺めている剣心。
「あるじゃないか!
あの『旗』だ」
「えええ?ハタあ?あの『誠』のお?」
「そうだ!あれだ」
「…色っぽくない…!」
「でも、いいんだ、なんでも」
「…うん…」
「信じあえていれば、なんでもいいんだ」
剣心はにこっと笑うと左之助に抱きついた。
左之助も剣心を力強く抱きしめる。



沖田がずっと土方と一緒に居られますように…か。
そうだな。
あいつらは、ずっと一緒なんだ。
「星」になってからも。

オレ達も……だな、剣心。



七夕まで、あと数日だった。






      剣心お誕生日物語  完結    
城みづき 04.6.30

      
前編&後編を合わせてお読みくださりありがとうございました!

          ★オマケ有り ヒジー&オッキーの絵だよん