「浅葱色の出会い」 前編


「ふ〜ん…そう…なんだか危なかしくなってきたでゴザルんです…」
ジョシュア剣心はふう〜とため息をついていた。
左之助はバイトに出かけていて留守。
日曜日夜8時は、「新選組」タイムだった。

「この…セリザワ・カモという人…危なかしい人…!
コンドウやヒジカタに斬られちゃうのかなあ?
オキタはどうするつもりだろ…」
ジョシュアは心配そうに首をかしげた。
ちょうど大河は芹沢が討たれようとしている直前だ。
せっかくまとまりかけていた組をかき回すかのように、自分勝手に行動していて、
隊のメンバーから疎まれている芹沢。
普段は穏やかな近藤勇も、さすがにその対処に困惑し、いよいよか…?という
ところに来ている。
ジョシュア剣心は「新撰組」の内容を知らないでTVを観ているので、
その後の展開がどうなるか分からないでいるのだ。
左之助の部屋にある新撰組関連の本は、漢字だらけで全然読めない。
そして先日、左之助は斬られて出番が無くなってしまったため、もう台本も無い。
だから大河の進み方がジョシュアの「新撰組」なので、この先に何が待っているのか
全く未知だったのだ。
近藤達の困惑が、まんまジョシュアの困惑である。

「どこの国にも時代にも…皆と仲良く出来ない人がいるんでゴザルんですね…」
ジョシュアはなんだかセリザワに同情している様子…?(笑)


ばたばたと大勢の人間が走る音が聞こえた。
ジョシュア剣心は慌てて路地へと隠れるように走る。
…見つかったら…殺される…!
そんな予感がして、必死に走る。
飛び込むように曲がった路地に、水を溜めた大きな桶がいくつも並んで置いてあった。
ジョシュアはその桶の影に隠れようとしゃがむと…
きらりと白刃が光った。
「…誰だ!」
「あ!」
頭に鉢巻をしめた若者が、こちらを睨みながら剣を向けていた。
強い殺気を感じる。
ジョシュアはびっくりして立ち止まるが…?
「夷敵!」(外国人の敵という意味)
「NO〜!テキじゃないデス、味方デス〜!」
大慌てに手を振るジョシュア。
(普通ならココで斬られるよ?ジョシュア剣心!)

だがその若者は、苦しそうに咳をしながらうずくまってしまった。
「けほん!けほん!」
ジョシュアは走り寄ると、その青年の背をさする。
「あの…ダイジョブですか…?」
「ああ…すみません…けほん、けほん。大丈夫ですから…」
「でも…苦しそうデス…」
必死で背中を擦る。
若者がにこりと剣心を見上げた。
どうにかやっと咳は治まってきたようだ。

「すっかりご迷惑をおかけしてかたじけない…
どうもありがとう…ところで君…誰?」
若者はジョシュア剣心が敵でないことを察して気を許したのか、穏やかな声で語りかけてきた。
「あの…ジョシュア剣心デス…あの…此処はどこなんでショウ?」
「え?じょしゅあ?けんしん?変な事聞くね。
ここは京都。三条大橋の近くだよ?」
「えええ?キョウト!サンジョウオオハシって何?」
「えええ?じょしゅあって名前なの?けんしん?それともこちらが名前?」
ふたりで大きな目で相手を覗き込んだ。
おんなじ顔で驚いている。
しばし沈黙があったが、すぐに吹き出してしまった。
ふたりでけらけらと笑った。
「あは…!ごめん〜。けんしんさんって言うんですね?」
「そうデス…剣のこころって字なんでゴザルんですけど…」
「ほお〜!それはすごくいい名前かも。
わたしは総司、沖田総司。新撰組の一番隊組長です」

ジョシュア剣心は仰天する。
オキタソウジだってえ?
うへえ!ほんとに?
だってフジワラタツヤ君じゃないけど?
ひょっとしてホンモノでゴザルですか?
あれれ…ほんとにダンダラのユニフォーム着ているじゃん…
じゃあキョウトに居るんですか?ボク!どして?
ジョシュア剣心は混乱する。
先ほどまでTVの新撰組を観ていたけれど、まさか自分がその中に居るなんてこと、
信じられなあ〜い!
あ、夢か。
きっと夢だ。
じゃあきっとヘイキだろう…と
ジョシュアは腹をくくった。
夢だから、斬られない、大丈夫だろうと。
そんな、呑気なことを考えた。

「どうしたのです?剣心さん?お屋敷に戻らなくてもいいのですか?」
「え?オヤシキって何?…」
「だってどこかの旗本屋敷の若さまでいらっしゃるのではないですか?」
「えええ?ハタモト?ナンです?それえ?」
ジョシュアははっと思った。
自分はあの、赤い着物を着ていた。
袴も穿いている、刀も2本たばさんでいて、髪はポニー…
ああ!あの時のスタイルで来たんだ、サムライスタイルだ、これはラッキーだ!
刀はおもちゃだけど…!(爆)
ジョシュア剣心は左之助が言ったことを思い出した。
「細っこくてどこかの若殿様みたいだぜえ?」
そうか…ボク、そう見えるんでゴザルんですね…

「あ、そうなの。オヤシキが分からなくなっちゃって…えへ」
「それは一大事!ではわたしが案内つかまつります。ご住所を」
「あの…実は逃げてきたので…オヤシキ帰りたくないんでゴザルんですよ…
匿ってクダサイますかあ?」
「はて…?それは一体何様で…?」
その時、また数人の足音が聞こえた。
どうにも誰かが逃げ居ているのを、追っかけている連中がいるらしい。
「し!もっと隠れて!」
ジョシュア剣心は沖田に腕を引っ張られて、抱きすくめられてしまった。
傍にあったムシロをかぶる。
あれええ〜!ちょっと…!
胸が高鳴った。
ああ…さの…ゴメンなさい…
でも…しっかりと抱きすくめられていると、とても安心の出来る胸だった。
ジョシュアはなんだか嬉しくなる。
この人と一緒なら、敵がやってきても斬ってくれるから大丈夫だ。
どうせ夢だもの…
たっぷりと楽しもうではありませんか…♪(余裕だなあ、ジョシュアったら)

「ああ、行ったみたいだ…」
沖田はそっと剣心を放す。
「突然すみませんでした。ペコリ。(ちょっとはにかむように沖田は笑った)
ところで…剣心さんは日本の方ではないようにお見受けいたします。
失礼ですが…?」
沖田はジョシュア剣心の姿を上から下まで見回した。
柔らかそうなさらさらとした金色の髪、薄い蒼の瞳、金色のまつげがばさばさと音を
たてている。
そしてさくらんぼのような赤いくちびる。
透き通るような、白い肌。
今までに見たことの無い、異人の美しさだった。
沖田は少々ドギマギとする。
「はい…実はアメリカから遊びにやってきましシタ。
ですが母が日本人だったのでゴザルから…剣心という名前もあるんデス」
「え?めりけんから?母上が日本人。ではお父上はめりけん人?では
あの黒船でやってこられたのですね?」
「ええ?ああ、そうデス…」
ああ、面倒くさいからそういう事にしておこう。
メリケンねえ…確かにそう聞こえるね?それにいい発音です、オキタさん…♪
「両親が亡くなったので、ある人に育てられたのですが…
日本に住んでいるトモダチ(笑)に会いに、日本へ来たんでゴザルんですよ」
「ああ…それはお気の毒に…実はわたしも両親は早くに亡くなり、剣の修業にと
引き取られた先で大きくなりました。
それは厳しい修業でしたが、父同様の近藤勇さんと兄のような土方歳三さんに
可愛がってもらえて…一緒に京都へ来たのです」
うん、うん、そうだよね、知ってますよ。
似たような境遇だなあ…と思ったもの。
…とジョシュアは思ったけれどクチに出さない。
「わたしたちは、京都で暴れまわる不逞浪士たちを取り締まる仕事をしています。
京都の治安維持が仕事なのです。
今夜は、その浪士たちが集まる会があると情報が入ったので皆と出かけてきたのですが
途中でわたしが具合が悪くなったので、土方さんに後から来いと言われたのですが…
どうやらわたしは今夜はもう働けないなあ…」
けほん、けほんと沖田はまた咳き込んだ。

ええっと〜?なになに?
英語に変換。
キョウトを荒らす、過激なテロリスト達のミーティングを潰すために、
張り込みに出かけたけど、具合が悪くなってみんなと一緒に行けなくなったので
リーダーに後から来いと言われた…でゴザルんですね?
「あの…拙者もそういう仕事デス…ラスベガスの大きなホテルの要人警護のために
銃を教えてくれたその育ての親元で働いているんでゴザルんです。
これでも銃が撃てるんデスよ。上手いんデス。
普段はカジノでディーラーをしていますが」
「ええ?銃って?ひょっとしてあの銃ですか!」
沖田くんのために日本語に変換。
自分もそういう仕事…銃が撃てるので大きな旅籠で用心棒をしている。
その旅籠はメリケンでも大きな娯楽場の旅籠で、そこの主人が育ての親だ。
腕が達者なので、刺客として働くこともある。
だが普段は賭場でサイコロ振りをやっている…???えええ?
こんなカンジの変換を…♪
面倒くさいから、ふたりには同時通訳器を貸しますねvv

「サイコロ振り!かっこいい〜!
もろ肌脱ぎかなんかで?じゃあ…いかさまなんてやることも?」
にやりと沖田が剣心を見る。
「もちろん!気に入らない相手には、ね♪でもキモノ脱ぎません。
それはちゃんと女の人のおシゴトです。
かわいい女の子たち、いっぱい、ミニスカからアシ見せて…♪」
こちらもにやりと片目をつぶって見せた。
「へえ〜!脚が見える短い着物!すごい!
メリケンのおなご達…君のような金色の髪をしてるのですか?」
「髪の色、いろいろ…ごーるど、ぶらうん…可愛くうさぎの耳つけていマス」
「へえ!うさぎ!かわいい…♪」
「尻尾もアリマス」
「うわあ…!」
「そんな女の子達がお酒売って歩いているんです、うち」
沖田はうさぎの扮装をした仲居がお酌してくれる…そう想像して嬉しくなる。
ふたりは額を付きあわせてにやにやと笑った。
時と場所を飛び越えても、庶民の娯楽は共通している。
若い男たちの喜ぶ点だって共通…♪

「そうか〜。わたしたちの育ち、環境、仕事…
どこか似ているんですね。
だから初対面でもこんなに…」
「オキタさんって、もっと怖い人かと思ってまシタ…ととと、思ったのデスが。
いきなりカタナ向けられてきたので〜」
「だって…これしか自分を守れるものが有りませんから…
いまのわたしにはこれだけが頼りなのです…」
沖田は寂しそうに自分の刀を眺める。
「これだけしか持っていない…わたしには、帰る家も家族もありません。
この刀だけが、わたしを新撰組に置いてもらえるよすがなのです…
それなのに…土方さんに迷惑をかけてしまった…」
「え…?誰だって、具合悪いトキ、ありマスから…ダイジョブです。
あなたのボス、分かってくれマス…ね?」

「優しいんですね…剣心さんは…どうもありがとう」
寂しそうに微笑む沖田が、その続きを言いたそうにジョシュア剣心を見た。
だが沖田はそれ以上何も言わなかった。
沖田のこころにある、自分の病気への憤りを、ジョシュア剣心には悟ることは
出来なかった。

「…人を殺してまで…この仕事をしていていいのかな?って思うんだ。
時々、無性に心苦しくなるんだ。
俺はきっと死んだら地獄へ行くんだろうな…母上父上には死んでも会えないなと
思うとね、時々寂しくなっちゃうんだ…」
ジョシュアはそっと沖田の顔を覗き込む。
「友達もね…もうたくさん死んでしまった…俺の周りには死神が付いて回っている」
「そんな…!」
でもジョシュアには沖田の言わんとすることが想像がつく。
確かに自分もラスのホテルでテロリスト達と撃ち合った。
怪我もした。
同僚のネッドも、自分を庇って撃たれて死んだ。
母も、父も、巴も…!
愛する人が次々と亡くなるつらさを、良く分かっているジョシュアだった。
こんな自分だけが生き残って…と悔やんだことも。

だがその時、ヒコが言ってくれた。
「助けられた命は、倍も大切に生きなくてはならん。
これからをどう生きるかを考えていかなくてはいけないのだ」と。
そしてその時、左之助がいてくれた。
満たされない日々の空虚な空間を、「恋」という甘い情熱で埋めてくれた。
自分が必要とされている…愛されている…
こころも身体も、温かい愛情で満たしてくれた左之助。
生きていて良かった…そう、こころから思ったのだ。
「あの…オキタさん…拙者にもいろいろとあったのだけど…
ダイジョブです…リーダーやボスの言う事、ちゃんと守ってお仕事すれば…
きっとオキタさんにも幸せが来マス…そう思うでゴザルんです!」
沖田は驚いたようにジョシュアを見た。
「そうか…
君にもつらい事がきっとあったのだろうね。
それを乗り越えて、日本に来たんだね?」
「あ、はい…そうデス…」
「そうか…そうだね…いま自分に出来ることをがんばればいいんだよね?」
「はい、そうなんデス!オキタさんは強いから、きっと多くの人、助けられマス。
さっきボクを抱きしめてくれたように…」
にこっとジョシュア剣心は笑った。
沖田を力づけてやりたかった。
何故だかとても…。
この青年が、笑って暮らしていけるように…ヒコやさのが自分を守ってくれたように…
この青年にも、誰か守ってくれる人がいればいいのに…と。
この人は腕の強さとはうらはらに、とてもナイーヴなものを隠し持っているみたいだ。


「おおお?こんな所に壬生狼が一匹いるぜ?
毛色の変わった猫も一緒だ」
はっと気がついて振り向くと、そこには見るからに不逞な浪士が数人立っていた。
しまった。全然足音に気がつかなかった!
ち!と沖田が舌打ちして立ち上がる。
「新撰組の沖田総司だ!」
「ほほう〜!いいところで会ったな。
逢引の最中に無粋だがね、やっぱりココは刀で話がしたいのだよ」
浪士たちが笑う。
それも、いやらしい笑いだった。
沖田もジョシュアも怒りに燃える。
「下がっていて、剣心くん」
「え?だって…?」
沖田は一歩前に進む。
「この人は関係ない。逃がしてやってくれ」
「ほほ?こんな所でこっそり逢引している相手が関係ナイだとお?
乳繰り合いながら、暗殺の相談事でもしていたに違いないだろ?え?」
わはは!と後ろの浪人たちがいやらしく笑った。
沖田がさっと刀を抜く。
美しい鞘走りの音が響く。
白刃が月に煌めいた。
「しかたないなあ…うふふ。
こんな見事な月の晩の逢引を邪魔されたとあっては
わたしも引っ込みがつかなかくなりましたよ?
さて…どちらのご同輩からあの世へと引導をお渡ししましょうかね?」
沖田がすらりと言ってのける。
そんな沖田の立ち姿の美しさに惚れ惚れとする。
先ほどよりも、一周りも二周りも大きく見えた。
うへ〜!かっこいい!やっぱりモノホンは違うぞ…
それに何という、日本刀の美しさ!
これが世界で最も美しく、最も残酷な剣であるということを実感として捉える。
だがこれはTVの中のことではない。
斬るか斬られるかの、いのちのやり取りが、いま始まろうとしている。
ジョシュアは身震いする思いで沖田を見た。

「へ!こなクソ〜!」と
短気な浪士がいきなり斬りかかって来た。
だが沖田は慌てることなくさっとその刀筋をかわして、真横から胴を払う。
「があ!」と叫んで血まみれになりながらその浪士は倒れた。
「こんガキァ〜!」とふたりめの浪士が飛び込んできた。
沖田はジョシュアを背に庇いながら、その刀を受け止める。
火花の散る音がした。
自分の目の前でその火花が散ったものだから、ジョシュアはあまりのすさまじさに
一瞬たじろいだ。
沖田はその剣を力任せにねじ伏せ、遠くへと払う。
だがその時。
沖田がまた咳き込んだ。
「けほ…!」
口元に手をやり、一生懸命息を整えようとしているが、咳は一向に止まる様子がない。
まずい!ジョシュアと沖田は思う。
でも…!

「よおしいい!拙者がお相手するでゴザルんです〜!」
ジョシュアはきらりと刀を抜く。
先ほどの沖田の様子を思い出しながら、だけど。
真似してみた。
型だけはイッパシの剣客ふうに見える(笑)
毎日左之助の部屋でカタナ振り回しながら修業したのだものネ!
ええ〜い!ボクがオキタ君を守るんだ!
もとより、そういう正義感だけは誰よりも強いジョシュアだったし!
ここでふたりとも斬られてしまうなんてまっぴらだ。
生きて帰って左之助に会うんだ!
たとえ夢の中でも死にたくない!
「け、剣心くん?」
「オキタ!今度はオレがやっつける!
下がってろ!」
「けん…!」
ジョシュアから、恐ろしい殺気が漂う。

構えは上段。
真っ直ぐに見据えた眼差しは、獲物に狙いを定めたスナイパー。
それもエド・清十郎・ヒコ仕込みの一級品である。
闘いの場には慣れている。
ジョシュアは一分の隙も見せない。
獲物は必ず仕留める。
浪士たちが、じりじりと後ずさった。

ああ…オレってかっこいいかも。
ホンモノのサムライみたいだあ…♪
ああ、でもここにベレッタがあったら!
そしたらこんなヤツら、ひとりひとり狙い撃ちしてやるのに。


絶体絶命!沖田とジョシュア剣心!
ジョシュアの刀は、NHKのセット、おもちゃなんだよ?



     
 後編に続く



     剣心ちゃんのお誕生日モノがこんな形になりました(笑)
     ちっともお誕生日モノじゃない?!すみませんです〜!
     沖田との遭遇を書きたかったのですけど…
     でもこんな形の出会いもいいかも?って、私は楽しく書きました
     るろとピスメ、どちらもハマったおかげでの、作品です
     後編も只今執筆中です、お楽しみに♪
     
     でもさ、やっぱり抜刀斎&沖田の出会いも捨てがたいなあ
     今度本気で書きたいですね
     「緋と蒼〜あかとあお」で

        
なお、ジョシュア剣心の「赤い着物姿」は
          「図書館=『浅葱色に憧れて』にございマス
          見てあげて下さいでゴザルんです♪




             
 04.6.20  オメデトウ剣心お誕生日物語    城みづき