星降る夜に君とデュエット♪No.2


「剣心、おらあ〜!また!部屋の中で振り回すなと言っただろうが!当たったぞ!」
「え?そう?ゴメンでゴザル〜」
ジョシュア剣心は変なイントネーションで「ござる言葉」を使っていた。
ハーフ顔の剣心がそういう言葉を喋ると、とてもヘンテコに聞こえる。
この、にわか武士ふうにおもちゃの剣を振り回すジョシュア剣心は、
アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフである。
先日、この部屋の主である左之助と共に「ラストサムライ」を観てからというもの、
すっかりジョシュア剣心は日本の武士道に心酔してしまった様子…
その後ハンズで買ったおもちゃの刀剣を、それこそ毎日「修業」と称して
この狭い左之助の部屋で振り回しているのだった。
「エエイ、エエイ〜〜!オラア〜!」びゅっ!
と、いう具合に…

左之助にとってはいい迷惑だった。
何せ狭い6畳一間、そこに所狭しといろんな物が溢れ返っていて、更に剣心が住むように
なってからは物が2倍に増えたのだから…
そんな部屋で剣を振り回して喜んでいる剣心。
剣心はあの映画にすっかりと惚れこんで、毎日
「ケン・ワタナベ!ワンダフル!サナダも!コユキもすごくいいおんなだ〜」
などと言いまくっているわけで…

ちくしょう!
映画のセリフ(英語)は全部分かってたんだな〜!くそお!
更に、自分の「剣心」という名前に「剣」という文字が入っていることをようやく実感として
認識することが出来たものだから、その嬉しさは剣心を有頂天にさせてしまった。
「ママは…なんといい名前をオレにつけてくれたんだろ…ね?さの?」
「ああ、そうだな。そうだね。って、何回聞けば気が済むんだ?」
「いいジャン、さのお!マイ、ワンダフルネーム!」
という賑やかな日常…
ジョシュア剣心と俳優左之助の物語、またまた始まり〜〜♪


「では、カオリ、今の文をイングリッシュで〜、プリーズ」
「ええっと…ア、アイ、ライク…」
ジョシュア剣心は某英語教室でインストラクターのアルバイトを始めた。
ピンクのうさぎのCMで有名な、三軒茶屋の駅前教室♪
お年頃の女の子や妙齢の主婦が多いこの教室、、座って明るくにこにこと英語を指導していけば
良いし、外国人講師も多いので、ナマの英語で話せる知り合いが出来たのも
普段慣れない日本語で話している剣心にとっては英語を思う存分話せる最高のバイトである。
当然、ハーフ剣心のクラスには圧倒的に女性が多い!
それも剣心を目的に集まってくるので、クラスはいつも満員状態だ。
特にこの駅はすぐ横に大きな女子大(城出身校)があるものだから、昼間から賑やかに
お稽古が進められていた。
「ジョシュア先生〜、付き合っている女の子っているの?」
「ねえ、ジョシュア先生、ラスベガスって素敵だって聞いたけど、どんな所なんですか?」
「お父様がホテルのオーナーって…それ何というホテルなんですか?」
「趣味が射撃って…人撃ったことあるんですか?」(爆!とんでもない質問だ)
なかなかにプライベートな質問が来るので、閉口気味な剣心だったが…
ちょっとその女の子達にインタビューしてみましょうね。
「そりゃあ、ジョシュア先生はかっこいいですぅ。カワイイですぅ。
あの長い茶色の髪、サラサラなんですよ〜、触ってみたくって!」
「あの瞳に見つめられたら、どうにかなっちゃいそう〜」
「絶対バレンタインにチョコを贈るの。出来たらデートなんかも〜」
「カレと一緒にいられたら、英語なんて出来なくってもいいわ〜♪」
…ごちそうさまでした。
左之助が聞いたらなんて言うかな?

さてその左之助にも、今年はいい年になりそうだった。
今年度のNHK大河ドラマ、「新撰組」にサブレギュラーで出演だ。
香取慎吾との会話もある、某浪人だ。
一応毎週のように名前がテロップで出る。
剣心も大喜びだった。
何せ、左之助がざんばらな長い髪をひとつにくくり、着物&袴姿で刀を差して登場する。
「かっこいい〜!さのがイチバンね。サムライスタイル!
今度スタジオへ連れて行って〜♪」
左之助も、「三谷幸喜さんに、認めてもらいたいんだ…だろ?
いつか、彼の芝居にもひっぱってもらいたいし…頑張らなくっちゃ!」と
はりきっている。
(後にこの左之助の役の男はすぐに斬られて出演は無くなるのだが…
さの&剣心はもちろんのこと、三谷さんも今は知る由もない)

左之助は相変わらずガソリンスタンドでバイトをし、芝居の稽古が入ると
それに熱中して全然お金のことが考えられなくなる。
幸いにもガソリンスタンドのオーナーがいい人で
「近頃の若者には無い頑張り屋だ!」と、応援してくれているので
休みがちになってもどうにかこうにかクビが繋がっている。
バイト仲間たちも応援してくれている。
でもバイト料が少なくなるのは否めない。
時折入るグラビアの仕事も、そうそう毎回いいお金になるとは限らないし
剣心と一緒の仕事になるが、剣心はいつもイヤそうなので、しぶしぶ引き受ける…と
いう具合なのであまり儲からない。
それに左之助は自分は俳優で食べて行ける様になりたいので、そういうグラビア仕事は
やっぱり「アルバイト」にしか思えない。
毎日家で任侠映画のビデオばかり見ている剣心も退屈極まりなかったので、
この剣心のバイトにもOKしたのだった。
だが?…
面と向かってはなかなか言わなかったが、左之助は心配でならなかった。
女の子がたくさんいる!
いや、野郎だっているはずだ。
あのカワイイ俺の剣心が、もてないハズがないのだ。
それに英語が出来る剣心は、座ってのバイト。
自分は寒空の下で、いちゃいちゃカップルの車にガソリンを注入する仕事で…
(当たり前なのに悔しくなる。バイト料も左之助の2倍だ!)
実はとても心配だったのだ…

「ええ?そんなコト、ナイよ〜、ヘイキでゴザルんです、さの」
「け!変なゴザル言葉を使うなよ。間違ってるぜ!」
「だって、オレ、ケン・ワタナベみたいな武士になりたいのでゴザルから、ゴザルも使いたいで
ゴザルんです」
「もおお〜〜!許せない!」
左之助はいきなり剣心にキスを仕掛ける。
黙らせるにはこれが一番だ。
「あ!さ…」
剣心の言葉は左之助の唇に封じ込められてとだえた…
熱い情熱に飲み込まれていくこの安心感を、何よりも幸福だと感じているふたりだった。


「いや〜!それはお前のほうだ、剣心」
「いんや〜!さののほうでゴザルと思う〜」
さのと剣心は遅いお昼ごはんを取っていた。
といっても、修がほかほかの肉まんとおにぎりを数個、買ってきてくれたからだ。
「今年はお前がバイト始めたし。女の子がいっぱいいるんだろう?
ゼッダイお前のほうが多いから、見てろ!もぐもぐ」
「そんなこと、ナイでゴザルんです、さの。さのだって去年もプロダクションにファンから
たくさんのチョコが届いたではゴザルんではないでしょか!
今年もTVに出たし、きっとさのがいっぱい貰うんでゴザルんです!むしゃむしゃ」
「け!そんなら事務所に届くのはオレ宛ばかりじゃないからな。
『ジュシュア様』宛てにだって、たくさん来るに決まってる!」
「そんなの…来ないと思う!」
「け!まあ、見てろ、バレンタインデー!」
ふたりは、多いほうが勝ち…と思っているのではなくて、
「多いほうが浮気者」…という感覚で話しているのだ。
他所の女の子への親切が多い…要するに「焼きもち」だったりする。
あ〜あ、という顔で修がおにぎりを頬張りながら会話を聞いていた。
「いいじゃありませんか…そんなのどっちが多くたって…どうせおふたりとも
いっぱいチョコ貰えるんでしょう?その時に数かぞえたらいいじゃないですか?」
「修!そういうお前はどうなんだよ!チョコもらえるアテはあるのかよ?」
「まあ…一件…」
「一件!」
「いや…貰えるかどうか分かりませんけどね、えへ…」
「お!?話せよ、この色男!なんだあ〜?」
さのがにやにやする。
「いやあ…えへへ。最近女の子と付き合い始めたもんで…えへ♪
くれるかなあ?チョコ…ってね、期待しているんですけどね♪
2月14日はバイトも休みで会う約束してるんで…」
「ウワオ、修!かっこいいでゴザルんです!」
さのと剣心は嬉しそうに首を突っ込んで…
「その子から貰えれば…たったひとつでも…ね、こう、こころのこもったチョコひとつだけでも
オレ、きっとものすごく嬉しくなるだろうなってね…えへへ…」
修は下を向いてはにかんだ。
剣心はその姿にうたれた…
「おお、ナイスガイの修ならきっと!いい話でゴザルんです〜、ね?さの!」
「おい…修…お前、恋してたのか…!」
と、左之助も嬉しそうだ。
この修、いつもこういうことになると引っ込み思案になりがちなヤツだったから。
となると、黙っていられないお節介なふたりだ。
「だったら金持ってるか?どこかレストランとか予約したか?
そういうのにオンナは弱いからな。予定を立てて…だな、こう…」
「さのお!レストランより映画とかのほうが良くない?あ、修!『ラストサムライ』観た?」
「『ラストサムライ』なんてダメだぞ!もっとこう、甘いムードのやつでさ!」
「まあ…予定は立ててますんで〜♪」
「なんだ?その予定というのは!」ふたりが乗り出す。
「いいじゃないですか!オレにはオレの予定があるんです!
おふたりだってデートするんでしょ?当日は…」(全く分からないよ。男同士でデートなんて)

ふたりは顔を見合わせた。
そういえば2月14日の予定をまだ組んでいない。
ひょっとしたらまたバイトが入っている可能性も?で大慌てだ。
すっかりと忘れていた!
それに…チョコを買っていない。
お互いへの…本命チョコを…
でも…きっと他のヤツからいっぱいもらうんだろうし…え…?どうしたらいいんだ?
やっぱり買ったほうがいいんだろうか?
そして「愛してる」って言うのがいいんだろうか…?
一緒に暮らしてもう2年も過ぎて…
そんなの、妙に照れくさいぞ…

「ま、まあ、修!デートにまでこぎつけたんだから、後はオシの一手だな!
そしたらチュ〜だって…」
話の矛先を変える左之助。
「キスならしました…もう…」
またはにかんで下を向く修…
ぱああ!と喜ぶ左之助。
「あはあ!こいつウ〜〜♪いひひ」
またも剣心が、そんな修に心をうたれる。
「ああ…ナイスだ…修…きっと修の恋が上手くいきますように…そうだよね…イチバンの人に
貰えれば、いいんだもんね?うん…GOOD」
剣心は頬を赤らめてつぶやいた。

左之助はそんな剣心を見ながら、「やっぱりチョコを買おう」と決心したのだった。


さて、ここで「さのは剣心にチョコを買ったのでしょうか?」とかいう文章で終わっても
それはかわいい物語として出来上がりですが…
ちょっとだけ「その後」なども…♪

「…来なかったなあ…チョコ…」
「うん…でもいいよ。こうしてバイトを外してくれたさのとデート出来たモン♪」
「そうか…」
さのは、嬉しそうに微笑む剣心を見た。
いつものように、ふたりが出掛ける渋谷。
2月14日土曜日の渋谷はそれこそデートのカップルでごった返している。
「だから…はい、これ」
「お?」
「チョコ…たったひとつの…チョコ」
去年よりはお金の種類も覚えて、ちゃんと目的のチョコをスムーズに買えた剣心だった。
赤いギンガムチェックの包装紙に金色のリボンがかかっている小箱を左之助は受け取る。
「お、おおう!」
左之助は嬉しくなった。
「うん…ありがとう…剣心…」
「まだヨロシクでゴザルんです、さの」
「きいい!やめろってばよ、もうそのゴザル言葉!きいい!」
(剣心にゴザル言葉を使うなとは…(汗))
「ええ?いいじゃん!でね、さの、お願いがあるんだけど〜」
「おお、何でも聞いてやるぞ!
お前もチョコが欲しいか?買ってやるぞ!それともラブホ行くか?」
「違うんでゴザルんです〜、ねえ、もう一回そこに入って『ラストサムライ』観たいんで
ゴザルんです〜」
剣心が上を指差す。
そこは前にラストサムライを見た映画館「プライムビル」の前だった。
「だめだ、だめだ!もうだめだ!もうそれ以上変なゴザル言葉を使ったら
ラスベガスへ直行させるぞお〜〜!きいい〜!」
「なんで〜?なんで〜?いいじゃん〜!さのお〜!」
これ以上「サムライかぶれ」されたらかなわない。
今度はサムライ衣装も買って…とか言い出しそうだし。
左之助は剣心の手を握り、さっさと人ごみの中を小走りに駆け抜ける。
「どこへ行くの?さのお…」
剣心の不安などお構いなしに。

「ラブホに決まってるだろうが!剣心!」

あまりの大きな声に道行く人々が振り返った…


さて、明日、左之助のアパート宛に、ダンボールがいくつも届くことになっています。
事務所ではいちいち渡すのが面倒だったので、届く都度、ダンボール箱に詰めていたのです。
剣心の英語教室でもそれはたくさんのチョコが届いたので、やはり「ジョシュア行き」と書かれた
ダンボール箱に集めていたのでした。
ご丁寧にも、おふたりの自宅宛にお届けしてくれる…
そのダンボール箱を届けるのがクロネコの修だったら、おかしいね♪

ハッピーバレンタイン♪
両手いっぱいの愛を。

さのから剣心へ。
剣心からさのへ。
城からふたりへ。



            城みづき