「日常茶飯事」   何奴 仁


毎日のように廊下に響く足音。
その足音を聞いて、溜息をつきながらも彼がいると嬉しくなる自分がそこにいる。

「またか。いっそ成長してへんなぁ」
新選組の監察型であり、隊医でもある山崎蒸は優しくほくそ笑んだ。
自分でもその顔に笑みがこぼれるのが分かる。
自分の顔の緩みに気づくと、頬を染めながらも顔を引き締める。
「成長してへんのは俺の方か・・・」
−こんなことがこないにも嬉しいなんてなぁ・・・
足音はだんだん大きくなり、自分の部屋の前で止まった。
「・・・・・」
反応をまっているかのようにしばらく襖の前でじっとしているその影に、
蒸は声をかけた。

「じっとしとらんでええから、入ってきたいんやったら早入ってきぃ。」
ボソリとつぶやくように放たれたひとことだったが、外の人物の耳には
しっかり過ぎる程届いていた。
遠慮がちにゆっくりと開けられる襖からつんつん頭をした男が頭をのぞかせた。
「ススム?」
満面の笑みを浮かべながら自分の名前を呼ぶ彼が愛しくてしかたがない。
「鉄、なんのようや・・・」
鉄と呼ばれたその男は新選組の副長小姓であり、名を市村鉄之助という。
床に入っていた蒸だが鉄が来ると部屋に灯りをともした。
辺りに線香のような匂いがたちこめた。
橙色の光は部屋を薄暗く照らす。
その光に彼の紅い髪がよく栄えている。
蒸は言葉こそぶっきらぼうだが毎夜のように鉄が小姓の仕事を終えて
部屋に来る時間が一日で一番しあわせだと思うのだった。
「“鉄、なんのようや・・・”じゃねぇよ!なんだよ、俺この時間楽しみにしてるのによ、
ススムってば来るたびに毒舌ばっか吐きやがって!!」
自分の声色を真似して目をつり上げる鉄を上から見下ろす。
ここ数年で延びた背丈を床に押しつけるように胡座を組み、
鉄は蒸ににじりよってきた。
足下で見上げる鉄をみて、目線を合わせるように蒸も布団の上に胡座をくんだ。
「・・・俺だって、いやなワケやない。」
「じゃ、なんでいっつもぶつぶつ言うんだよ!」
−可愛いからにきまってるやん。自覚ないやろ。
「時間が遅すぎるんや。」
「でもそれにしたってさ・・・」
−こんな時間にきて、襲われたってしらんで。
「はよ部屋ぁもどり。」
気持ちとは裏腹に蒸の言葉は突き放すようになっていった。
薄い布団へはいると鉄に背中を向けた。
これ以上顔を合わせていると、赤くなった顔を見られてしまいそうだったからだ。
「・・・ススム。」
鉄が行灯の火を息をかけて吹き消す。
辺りはたちまち闇と化した。

「鉄・・・?」
まるでさっきのようにそこから動こうとしない鉄に蒸は声をかけた。
夜目がだんだんきいてきて、その輪郭がはっきりと鮮明になってきた。
そこで初めて、鉄が自分の方を向いていることが分かった。
「ススム、入っていい?」
鉄が布団の裾を握ってそう問うた。
背格好とは別に捨てられた子犬の様な目に、蒸は頭を抱えた。
「好きにしい。」
そうはいっているものの、もう答えは決まっているかのように布団の角の方へと
体をよせた。
後ろでにんまりと笑っている鉄が見えるかのようである。
「へへっ」
鉄は自分の体を布団の中へとすすめた。
蒸が入っていた為温められたその温もりを感じると共に鉄はいった。
「薬臭ぇ・・・」
臭いと言いながらも体をくっつけてくる鉄が愛しく思う。
−分かってへんな、自分の魅力・・・
蒸は振り返ると鉄の首筋の跡を爪で軽くおした。
「まだ消えてへんねやな。」
「あ、あぁ・・・」
恥ずかしながらも自分のもの、と主張しているようなその跡。
実は独占欲が強い、ということは鉄以外の新選組隊士は知るよしもなかった。
そんな蒸の隠れた性格を自分だけしっている、ということが
鉄自身とても嬉しかった。
「な、ススムっ」
腕を腰に回すと鉄は髪を結っている紐をほどいた。
「・・・明日腰ぃたたんなっても知らへんで?」
フッと蒸が笑ったかと二人の顔の距離は近くなっていった。


翌日
「副長〜、茶ぁ入りました〜」
屯所内にはいつものように鉄の声が響いていた。
「おぅ。」
書類と睨めっこをしながら土方は答える。
どうやら機嫌はいいようだ。
鉄が障子を開けるとそこはいつものように靄がかかったかのように
辺り一面真っ白だった。
「副長、たまには喚気も大切ですよ?」
「っせえなぁ・・・」
筆の動きが止まったと同時に鉄の注意ときて、土方の機嫌は絶不調にまでおちた。
「いいから茶ぁ早くおけ。」
前髪がうざったいかのようにかきあげながら睨みをきかすように鉄の方にむいた。
と、向いたとたんに土方は不振な顔をした。

「おぃ、首にアザぁできてるぞ?昨日もあったが増えてやがる・・・」
音がなるくらい鉄の心臓は大きく音をたててなった。
「えっ!?あ、これはちょっとっ」
「それは昨日稽古で集中攻撃されたときにできたアザですよ。」
しどろもどろしている鉄に助けの手をさしのべたのは蒸だった。
「山崎君、君か。どういう風の吹き回しだ?」
「と、いいますと?」
障子の向こうに影だけみえる蒸は軽くもたれかかった。
「いつもはこいつのことなんかほっとく君が、今日は・・・ね」
「別に、単なる風の吹き回しですよ、副長。」
それだけいうと障子の影は歩いていってしまった。
「・・・・・」
「えっと、だから、稽古で・・・」
自分をみる土方の目が疑っているのは目をみなくとも雰囲気で分かる。
しばらくして土方がゆっくりと口を開いた。
「そんなに跡ついてるんだから、痛くなかったか?」
「そうなんすよ、ススムってば・・・ぁあ!!ふ、副長!!!」
「そうか、やっぱり山崎君か。」
山があたったとにんまりする顔が酷くみえる。
まるで笑っている声が聞こえてきそうだった。
−ススム・・・ごめんっ
「フッ・・いい日になりそうだぜ。」

半紙に筆を押しつけると鉄に“かたづけておけ”とだけ言って部屋を後にした。
かと思うとすぐに左之助が部屋へ飛び込んできた。
「おい!鉄、お前ぇススムと・・その・・・」
変な汗が額を流れ落ちる。
「副長おぉぉぉ!!!!!」
涙混じりのその目が頭に浮かぶのは優しい顔をした鬼だった。
「ほ、本当だったのか・・・」
一人のこされた左之助は低い襖の天井を手をそえてくぐりぬけた。

その日のうちに屯所内に広まったのはいうまでもない。
ちなみにその日から診療室には患者でもない隊士が増えたという。



  −了−

      

   城さんへ

初めてのピスメ小説を贈らせて頂きます…

                 何奴 仁






仁ちゃん!
初めてのピスメ小説の完成おめでとうございます〜
それをフル・スロットルへ贈って下さるなんて、とても嬉しい〜♪
なんですか?やっぱりススムと鉄は…?の展開でしたか!
実は私はこっそり(笑)山崎烝のファンであります。
あの女装姿も忍びの姿も大好きだったり…
それに鉄に遠慮なく関西弁でモノ言うでしょう?
あの態度がねえ、ちょっとエラそうでね〜
土方さんや沖田さんには、丁寧なんですけどね?鉄にはこういう風に喋るでしょ。
うふふ…
ちょっと甘い展開で…♪
鉄も大人の入り口に立っているし。
ますます辰兄が心配しちゃうでしょうに…(笑)

おお?土方さんにもバレバレですかね?
普段いかめしい顔ばかりの土方さんの、「山が当たった」とにんまりする顔…見たい!
それに左之助まで登場〜!
ウレシ〜!
ピスメを良く知らない人でフル・スロットルに来ている方々には
さの剣の「左之助」が出てきたのか?と思っちゃうかも…
そう、るろ剣の相楽左之助のモデルとなった「原田左之助」が、ピスメに登場しています。
豪快な、大柄な、それでいて優しい心を持った、いいヤツで
私は大好き♪

仁ちゃん、お忙しい中、どうもありがとうございました〜
私もピスメ小説が書きたくなりました!
この小説、勝手に9万HITのお祝いとして、受け取らせて頂きますね。

         城みづき