もしも願いが叶うなら…

昼間の賑やかさがまるで嘘のように…
しーんと静まりかえった夜ももう遅く…
かろうじて雨の降らなかった今日という日に感謝しながら
剣心は夜空を見上げていた…
「良かった…夜には晴れた…」
星も見える。
初夏の夜の、濃い藍色の空は美しい。


今日は七夕だからみんなで笹を飾りましょうよ、という薫殿の提案で
皆でいろいろと飾るものを作った。
綺麗な和紙や色紙で提灯やら星形だとか
「織り姫」「彦星」と書いた短冊やら…
勿論、個人的なお願いを書いた短冊もたくさんだ。
皆うきうきと楽しそうにはさみを持ち、糊で指をべたべたにしながらも
出来上がった飾り物や短冊にいちいち騒いで
それはもう、賑やかだった。


剣心はそんな昼間の心弾む時間を思い出しながら
笹に飾られた短冊を読み返している。

 「剣術がもっと上手くなりますように…」
なるほど弥彦はまっすぐなお願いでござる!
 
「剣心とずっと一緒にいられますように…」
薫殿のお願いは少々困る点もあるのだが…
素直に喜ぶこととしよう、ありがとう…

 「新しいかんざしが欲しいです」
おお、かわいらしいお願いでござるなあ、あやめちゃん達。

 「みんなが仲良くいられますように…」
かわいくていいお願いでござる…燕殿…
良く出来たおなごでござる。
弥彦には少々出来すぎな彼女になることだろう。
 
「皆が健康でケガなんてしないように…」
恵殿のお願いはさすがにお医者のことはある。
いや、それ以上に心使いがさすがだと思う…ありがとう…

そして
笹飾り作りの最中に飛び込んできたアイツは?…
「け、そんなの書いたって叶うハズねえじゃんかよ、くだらねえの!」
「あら!左之助ったらなんてこと言うのよ!こういうのはねえ、みんなで
わいわいお祭り騒ぎしながら作るのが楽しいのに」
「そうだわ、左之助。アンタこそ『もうケガしませんように』とか書いたら
いいじゃないの!まったく手間のかかるったらありゃしない…」
「そうでござるよ、さの!早く定職が見つかりますように…とか書け!」
「あんだあ?剣心!お前まで女こどもと一緒になりやがってえ〜」
眉をつり上げて大声で怒鳴るさのこそ、子供みたいだった…


そういや、あの後アイツは短冊にお願いを書いたのだろうか?
皆で賑やかに話していたが、その後さのが書いた様子を見ていない。
どれどれ…と剣心は笹のあちらこちらを探してみる。
おや?と剣心が見つけた青い和紙の短冊…
このこ汚い字はやはり…(注@剣心、とても人のコト言えないんじゃ?)

「仕事が見つかりますように。ただし、楽で金がいっぱい入るやつ。
ケガをして痛い思いをしないように。ただしケンカは歓迎する。」
ああ〜、こんなことを…
言われたから書いた、みたいな、なげやりな…
でも注意書きがさのらしくて、なんともおかしい!
まったくアイツは…
と、剣心は小さく笑う。
そして何気なくその青い短冊を裏返して見ると…
こ汚いうえに小さく書いてあるので読みにくかったが…
「剣心といつも一緒にいてえ!ヨロシクお星さん!」


剣心は胸が詰まった。
あの野郎…こんなことを、こんな所に…
こんなお願いがあったのか?さの?
恥ずかしいじゃないか……

剣心は自分用に残しておいた1枚の短冊を取り出す。
じっと紙を見つめた。
この短冊のお願いが本当に叶うなら…
「皆で仲良く平和に暮らせる世でありますように」
そして、先ほどの左之助と同じように裏にも書く。
「大好きな皆とずっと一緒にいられますように…」
ほんとはなあ、「さのとずっと一緒にいられますように」と書きたいけどな、
左之助、許せよ。
皆に見つかるとハズカシイからなあ〜♪



1年に一度しかそれも晴れた日にしか会えぬとは
どんなに苦しい恋であろう…
でも永遠に誓いあっているとは、なんと幸福な恋人同士であろう…
オレもさのとずっとそうしていたいと思うよ…


剣心はそっと短冊を笹に結びつけた…
たくさんの星のどれが「織り姫」と「彦星」なのであろうか?
きっときっと今夜は嬉しくて思いっきり抱き合っているだろうふたりを
祝福しながら
剣心は長いことそうやって夜空を見上げていた。