おぼろ月夜

半月のほの暗い夜
犬夜叉の姿をじっと眺める弥勒がいた。
気づかれないように…
少々遠くから眺めている。

まだつぼみも固い桜の木の横に立ち
おぼろに光る月を見上げる犬夜叉は
その立ち姿だけで、もう桜が満開かのような錯覚を呼び起こしそうだ。
長い銀糸の髪をそよぐ風に任せ
紅い衣の裾をなびかせながら
何を想うか、その憂いをおびた表情は
昼間には決して人に見せないものだった…
弥勒は心臓がぎゅっと絞られるような感覚を味わう。
とても声を掛けられるような感じではないー

美しく誇り高い獣…
ただひとりの…「半妖の犬夜叉」



「なんか用か?…」
振り向きもせずに犬夜叉がもらす…
その声音も昼間には聞いたことがない、静かな、そして暖かみのあるものだった…
弥勒は慌てたが、動揺を悟られないように返す。
「気が付いたら…お前がいなかったものでね…どうかしたか?と」
「そうか…」

普段ならこの辺で「なんだよ!そんなの俺の勝手だろ!」とかなんとか
憎まれ口を叩く犬夜叉のはずなのに…
こちらを見ることもなく、静かな口調で答える。
「綺麗だよな…もうすぐ桜も咲くんだろうなあ…」
綺麗なのはあなたですよ、と弥勒は返したくなったが
次の犬夜叉の言葉を聞きたくなって、そっと言葉を飲みこむ。
「春が来るんだ…」
犬夜叉は何を言いたいのだろう…
「春が来て夏が来て秋が来て…そうやって季節を楽しみながら、
ずっとみんなと一緒にいられるのだろうか…」

ここでやっと犬夜叉は弥勒の方に向き直った。
「お前と一緒に…」

犬夜叉は不安な笑みを浮かべながらささやくようにつぶやく。
じっと弥勒を見つめる大きな金色の瞳が
わずかに潤んでいるように見えた。
弥勒も真剣な瞳で、優しい口調で答える。
「もちろん…ずっと一緒に、です。犬夜叉」
犬夜叉が目を細めて微笑む。
そしてゆっくりと弥勒に近づき、その手を弥勒の肩にかける。
「うん…」
弥勒もそっと犬夜叉の背を抱く…


       「お前に出会えて良かった…」
       同じ感情がふたりのこころを揺らしたが
       その言葉を口にすることはせず
       そっと抱き合ったまま
       静かに風の流れる音を聞いていた…




           おぼろ月夜の
           ふたりだけのひととき…

  



        
        
半月の夜なのに満月の壁紙どす…