Present for You  後編


「あのな…剣心。
落ち着いて聞いてくれよ。な?」
「ぐすん、ぐすん。
イヤでゴザルんです、さの!
ベッドシーンやらないでって、約束したの、忘れたんでゴザルんですか?
ひどい…ひどいヨォ…」
「ジョシュアさん、これってお芝居なんです。
ウソのお話なの。
だからさのさんは、ウソで女の子を抱くんですから、大丈夫ですよ?」
「イヤ〜〜!もっと悪い!!
好きでもないのに、ヤるんですか?そんな役をするんでゴザルの?さのは?」
「ち、違うぞ!役の中では、本当にその女の子と愛し合っているんだよ。
だから抱くんだ」
「えええ?もっとイヤでゴザルんですう〜〜〜!ううう…
それにヌードになるんでしょう?ハ、ハズカシイでゴザル…」

修とさのは顔を見合わせる。
パニックになっているジョシュア剣心に、何を言っても駄目なようだ…しかし!
「剣心…聞いてくれ。
オレが、本当に好きなのはお前だけなんだぜ?」
じっと剣心の目を見て話す。
「それに…これは芝居の中のことであって、ホンモノじゃない。
ホンモノの恋はお前だけなんだ」
「さの…?」
「それにな、剣心。オレさ、修のデビューを最高のものにしてやりたいんだよ。
だから、引き受けてきた。
お前がベッドシーンを嫌がることはちゃんと覚えていたんだぜ?」
「さの…」
「だがよ。修の為に、オレの為に、この芝居いいものにしたいんだ。
それにさ、我が儘は言えないよ。まだオレ、駆け出しの役者だもんな。
やれと言われたら、そりゃ死人の役も人殺しの役だってやらなくちゃならネエ。
じゃないと、もう次は無いかもしれないんだからな」
「…はい…」
「だろ?だからさ、覚えていて欲しいんだよ。
たとえば、そういう女の子絡みのシーンでも、ぜ〜んぶウソの芝居でさ、
本当に好きなのはお前だけってこと…」
さのはそっと剣心の頬を触る。
「ほんとに?
ほんとに?さの…?お芝居、全部、ウソのこと…ね?」
「ああ、そうだよ…
好きだ…剣心…お前だけ」
「さのおお!」
と、ジョシュアは思いっきり左之助に抱きつく。
左之助も力強く剣心を抱きしめる。
修が居たことなど、忘れていた。

「あちゃあ!目の毒〜〜〜〜!」
「あ、スマン、修!」
「修、メノドクって、何でゴザルんですか?」




「よし!ちょっとやってみるか!
剣心、お前も手伝ってくれよ」
「OKです〜ぅ。面白そうでゴザルんです!
でも、拙者、女の子役ですかあ?」
「むむ…ま、いいか…カワイイから似合うぜ、いひひ」
「じゃあ、ちょっと待ってて〜」
後ろで束ねていた長い茶髪を解いて、着ていた黒いセーターを赤いものに換えた。
胸にもタオルをはさむ。
「拙者も、役者〜〜!うふふ、どう?これでいいでゴザルんですかあ?」
首をかしげて振り向くジョシュア剣心。
おおっと…これは…と左之助と修は息を呑んだ。
可愛らしいじゃあないか!
ちょっとシナを作ったジョシュア剣心は、もうすっかりと女性だ。
胸のふくらみがあるのが、更に色気を発揮している。
ふたりはちょっと困る…(笑)

「お、おう!ささ、修、言ってみろよ」
『ひろみ!おれ、お前が好きなんだ!』
「えっと…?修の名前は何でしたっけ?さのは?もう一度プリーズ」
「修は『健一』だ。オレは『アキラ』だ。
適当に合わせていいからな?剣心」
「OKでゴザルんです〜、じゃあいくね。
『え?ケ、ケンイチさん、ワタシ、アキラさんが好きなんです…』
『ひろみ!』
〜〜「健一、ひろみの腕を掴む」(ト書きは左之助が朗読しています)
『きゃ!な、なにスルの?放して』
『いいじゃないか!どうせアキラは居ないんだ。
それに今頃アイツ、他の女を抱いているかもしれないんだぜ?』
にやりと修が微笑む。
「いいぞ!修!うまいぞ!」
「そうッスか?じゃ続き。『オレ、前からずっとひろみの事、見てたんだ…』
『放して、放してエエエエ〜〜!』
〜〜「健一、ひろみをベッドへ押し倒す。嫌がるひろみのセーターをまくる」
修はジョシュアを左之助のベッドヘ押し倒す。
そしてその身体の上にまたがり、ジョシュアを組み敷いた。
『きゃあ、イヤあああ〜』
〜〜「健一、ひろみのブラジャーをもぎとる」
「さの…拙者、ブラジャーしていないでゴザルんですけど?」
「いいから、しているつもりになってろ。さ、修」
「はい…『黙れよ…いいじゃないか…』
〜〜「健一、荒々しくひろみの胸をまさぐる」
修はジョシュアの「タオルの胸」を揉みしだいた。
『いや!やめてええ〜』
ジョシュアは首を振って抵抗する。
『どうせ、アキラといつもやってるんだろ…?
オレの気持ちなんか、ちっとも分からなかったろう?』
「うまいな、修!そこだ!やっちまえ」
『ケンイチさん!辞めて!』
〜〜「健一、嫌がるひろみのスカートに手を入れ、下着を脱がそうとする」
『きゃ!』
〜〜「健一、ひろみの首筋に噛み付くように口付ける」
修はジョシュアの首筋に思いっきりキスをした。
『あ、あ、いや…ああ!』
〜〜「ひろみ、嫌がりながらも感じ始める……」
『あ…ケンイチさん…』
〜〜「ひろみ、健一の背に腕をまわす…むむ…」
ジョシュアは修の背中を抱きしめた。
……

「お、おい…ちょっと…」
『ひろみ、オレ…オレ…!』
『ああ…ケンイチさん…!』
「おう!ちょっと待て!
駄目だ、辞めろ!修〜〜ぅ!」
「は?何です?一番イイところで?」
「何を?この野郎!いい気になりやがって」
「はああ?」
「剣心、お前もだ!
何をそんなに喜んでやがる!
そんなにいいかよ?ち、チクショ〜!」
「さの!これ、お芝居でゴザル!ってさっきさのが言ったでショ?
何そんなに怒ってるんデスかああ?」
「うるせえ!修も許せネエ!」
と、左之助は剣心に跨っていた修を引き離すと、その胸倉を掴んだ。
「さのさん、芝居ですよ!修じゃなくて『健一』です!」
「そうだった!ええっと、『健一、この野郎〜〜!てめええ!』」
左之助は修の胸倉を掴んで振り回した。
「うわ…!本気、じゃないです、よね?さのさん!」
「うるせえ!覚悟しろ、修!じゃなかった、健一!
剣心の首に痕が付くくらいにキスしやがって!
じゃなかった、ひろみの首に痕が…く、くそおおお〜〜!」
「やだ!さの、ヤメテでゴザルんです!こ、怖い〜〜!」
「さのさん!」





3人はぜえぜえと息を繰り返す。
「修…すまなかったな…はあ、はあ…」
「いえ…すみません…ボクのほうこそ…ぜえ、ぜえ…」
「さの…怖かったでゴザルんです…はあ、はあ…」
「…まあ…こういう内容だ…
なかなかに、ドロドロだな…」
「すみませんでした…その…つい本気になってしまって…」
「何を?本気だと?許せん!」
「ち、違いますよお〜!そういうんじゃなくて、芝居に本気になったってコトです!」
「むむ…しゅ、修…こりゃあ、面白そうなドラマだな。
いい芝居が出来そうじゃないか…」
「はい…。面白くなりそうです」
「頑張ろうぜ」
「ええ!」
「でもよ…オヤジが何て言うかが心配になってきた…」
「ボクもです…」
「ハイ、カット〜〜!ってことね?
さの、修、上手かったでゴザルんです!
さすがに、俳優のタマゴさんたちですネ」
「剣心…お前、上手すぎだったぜ」
「ええ?そうですか?」
「ああ、お前ほんとに感じてたんじゃないだろうな?」
「まさか!拙者はさのオンリーだってこと、忘れたんでゴザルんですかあ?」
「むむ…まあ…いいか…しかし修、お前も迫真の演技だったぞ?
上手かったな!」
「はい…ジョシュアさんがとても可愛らしいので
つい本気になってヤリたくな…ととと!違いますよ、さのさん!」
左之助の手が修を殴る直前で止まった。


近くのファミレスで軽い食事をして修と別れた。
さのとジョシュア剣心はゆっくりと歩きながらアパートへ向かう。
辺りはもう夜になっていた。
遠く、世田谷線の踏み切りの音が聞こえてきた。

「剣心…さっきは…」
「さの…?」
「悪い…アレって結構イヤな気分になるもんだな」
「…さの…」
「お前が修とヤッているのは芝居だって、オレにも分かっていたさ。
だがよ、何だか無性に腹が立ってきて…」
「…うん…」
「だから…お前がおんなとの絡みシーンを嫌がる気持ちが分かったよ…
ごめんな、剣心…」
「…さの…分かってくれたんでゴザルんですね?ウレシイ…」
「ああ、剣心…でもあの芝居はやるぞ?
いいな?もう引き受けちまったんだからよ…修もオレも、やる。
仕事なんだからな…それも修にとってもオレにとっても大事な一本だ」
「…はいでゴザルんです…OKです…」
「今後も…こういう事、あるかもしれねえ。だから…」
左之助はもう一度剣心の目をじっと見て…
「忘れないでいてくれ…
オレが好きなのは剣心で、後のは全部芝居だってことを…」
「はい…でゴザルんです…」

剣心は下を向く。
剣心はもう、さのが気持ちを分かってくれたということで満足していた。
左之助が、駆け出しの役者でどんな役も断れないのも、分かっている。
充分に。
だが頭で理解していても、気持ちのどこかで許せないところがあったのだ。
それは自分が…男性であるからの、劣等感?…
つまり女性へのコンプレックスもある。
半分アメリカ人ということもある。
年上ということも…
それら全て、普段はジョシュアも出来るだけ思い出さないようにしていたのもある。
だからと言ってさのを愛することでは誰にも負けないという自信もあったし
さのが十分に自分を想ってくれているのも分かっていた。
なのに…なのに…なのだ。
要するに、やっぱり「焼きモチ」なんだってことも、分かっていたのだ…
でもさのが分かってくれた…
「さの…好きでゴザルんです…」
「剣心…♪」
さのががしっと剣心の肩を抱いた。
剣心も向きを変えて左之助に抱きつく。
さてキスを…というところで…?
角を曲がってきた女子高生と目が合ってしまった。
ヤバ…!
ふたりは慌てて離れた。
さりげない様子を装って、ふたりは笑いながら女子高生の脇を通り過ぎ…
その時、だった。
「あああ?ジョシュア先生でしょう?」
「ええ?」
剣心は大慌てである。
「ほらあ〜○○○○ですよ〜。教室の。イヤだあ〜、覚えてない?くす♪」
「ああ〜!ミス○○!グッドイブニング。ハウアーユー?」
「アイムファイン、サンキュー」
「OH,GOOD!」
剣心はにっこりと微笑む。
「やだ〜、ジョシュア先生、この辺に住んでるの?」
「そ、そうでゴザルんですよ〜」
「私も、なの。それに…かっこいい人ね?その人…♪」
「ああ、紹介シマスね。ボクの友人、サガラサノスケ君という、
俳優のタマゴさんです」
「俳優!やっぱり!かっこいいものね。背が高くて…♪」
女子高生ははにかんだような笑みだ。
「どうぞよろしく。相楽左之助です。今度僕の芝居にも来て下さい」
さのはしっかりと営業スマイルで答えた。
その言いっぷりもカッコつけている。
「あ、はい!必ず!嬉しいわ。ジョシュア先生、教えてね?」
「OKでゴザルよ〜、ではグッバイ♪次のレッスンでね〜」
「イエッサー。グッバイ。」
女子高生はにこにことしながら駆けて行った。


「だからあ!そういうイイ顔するなでゴザルんですよ!さの!」
「なんだと?ああいうのは全部芝居だって、さっき言ったろうが!
それに何だ!お前だってデレデレとしていたぜ?
あれが、教師が生徒に向ける笑顔かよ?
どうせあの子からもチョコ貰うんだろうよ!ふん!」
「もうさのったら、ホントに〜〜!」
「この野郎〜!」

ふん!とジョシュアはさっさと左之助を抜いて早足で逃げる。
左之助も後を追いかける。
コンパスの差で、左之助が剣心に追いつくのは簡単だった(笑)
左之助は剣心の腕を掴み、こちらへと向かせた。

「よそうぜ…剣心」
「…さの…」
「一日に二度も喧嘩するなんて…イヤだよ、オレ…」
左之助が悲しい目をして剣心を覗き込んだ。
剣心には、その目が、たまらなく可愛らしく見えてしまった。

ああ…もう…!
どうしてコイツには勝てないんだろう…
こんな目を見てしまったら…もうダメなんだ…

「…はいでゴザルんです…拙者もごめんなさい…」
「…うん…」

にこっとふたりは笑う。
本当は思いっきりここで抱き合いたいのだが、
先ほどのようなこともあるので(笑)、ふたりはぐっと我慢して手を繋ぐにとどめた。
「えへへ…ちょっと照れるな…」
「え?手を繋ぐ事がでゴザルんですかあ?」
「うん…なんか、初々しいジャン…」
「さのってば…♪」

「お前の手って冷たい…」
「さのはあったかいでゴザルんですう〜♪」
「部屋に帰ったら、もっともっと暖めてやるからな…」
「はいでゴザルんです〜〜〜!」
にこりと笑ってふたりは繋いだ手に力をこめた…


ふたりの上には満天の星。
ハッピーバレンタイン。
今年も。
左之助とジョシュア剣心の物語は
まだまだ続きます…♪
だって、いよいよ撮影開始だよ?







                                      


   前後編お読み下さいましてありがとうございました。
   また次回作をお楽しみに♪

                          城みづき