『 爪 』  白金ペンギン

 パチン、パチンと、単調な軽い音が響く。
 切りすぎないように、両端を揃え、形を整えて。爪を切る。10本の指を、
左手から順番に。
 終わると今度は足の指だ。よいしょ、と、足を懐紙の上に乗せ、大して伸びてもいない爪を、左足の親指から切ってゆく。
 パチン。
「……何を見ている?」
 足の爪に視線を向けたまま、あいつは言った。
「別に。……爪切ってるなあって」
 俺は、寝ころがったまま足を組んだ。
 チリン、と、軒下の風鈴が涼やかな音をたてる。
「なにか面白いのか」
 パチン。
 あいつは言ってから、足を代える。今度は右だ。
「面白くねえけどよ。……わざわざ紙なんか使わなくたって、庭にそのまま捨て
りゃいいじゃねえか」
 縁側に座り込んで爪を切ってるあいつは、口許を綻ばせた。
「もっともだ」
と言いながら、また爪を切る。
 パチン。
「左之は、おおかた、その辺で切りっぱなしなんだろ」
「掃除すりゃ同じじゃねえか」
「掃除なんかするのか?」
 あいつは振り向き−−−−からかうような笑みを浮かべて俺を見た。
「するわきゃねえだろ」
 俺は上半身だけ起き上がる。あいつの向こうに、抜けるような夏空が
ひろがっているのが見渡せた。
「なあ、なんで爪なんか伸びるんだろうな? 伸びなきゃラクなのによ」
「そうだなあ」
 あいつは再び足の爪に向き直る。
パチン。
「髪の毛だって、伸びなきゃ切ることもねえのに。意味ねえよな」
 俺は坐ったまま、あいつの方に身体をずらす。
「だいたい、爪って何の為にあるんだ? 背中掻くためか?」
「知らぬよ、そんなこと」
 あいつは笑いながら
「左之も切ったらどうだ?」
と、はさみを俺に渡そうとした。
「伸びてねえよ」
と俺。
「伸びてるじゃないか。昨日、痛かったぞ」
 あいつは苦笑めいた表情で俺を見る。
「え? 痛かった?」
「背中や太ももや……けっこう爪が当たってたぞ」
 俺は昨夜のことを思い出して……黙って手を伸ばし、剣心からはさみを受け取った。
あらためて指を見ると、確かに伸びている。
「この前切ったばかりなのに」
 言い訳するように呟くと、剣心は、下から覗き込むように俺の顔を見た。
「知ってるか左之? 無駄で意味のないようなものに限って、楽しいものなんだ」
 チリン、と風鈴が揺れる。
「昨日の俺たちのことみたいに……」
 剣心の声が囁きのそれに変わる。
 切っても切っても伸びる爪。
 軒下の風鈴。
 夏の、真っ白な午後。
「オレたちは爪かよ? ひでえな」
「しかしいくら邪魔でも、爪全部を切る者はおるまい?」
「お前それは、切るんじゃなくて、剥がす、って言うんだよ」
 俺たちは目を見交わし、くすりと笑みを洩らした。
「かなわぬな」
 剣心が笑う。
「何だよ」
 俺が問うと、剣心は横目で俺を見、再び微笑んだ。
「何でもないよ。ほら、早く爪を切れ」
「へん」
 俺は手を広げ、爪と格闘し始める。
 パチン。
 剣心が今度は、さっきまで俺がそうしていたように畳の上に寝ころがった。
俺を見る。
 パチン。
 俺は爪を切る。風鈴がチリリ……と鳴った。
 剣心は訳もなく微笑み、不思議と俺まで、何となく幸福な気分になったの
だった。


  明治11年、夏。
  忘れ得ぬ光景。俺は恋をしていた。
  19だった。

                                   終わり


     

 
    白金ペンギンさん  「よろずの雨」


        なあ、城さんよ
        るろ剣で初めて同人やったって聞いたけど、
        剣心と出会って人生変わったっていう点じゃ
        俺と同じだなあ。
        いつも世話になってるけんど
        これからも俺と剣心のらぶらぶ物をよろしく頼むぜ。
        (平成の世じゃらぶらぶっていうんだろ、
        俺だって知ってんだよ、へへ)
        あ、ペンギンからの伝言だ。
        今度また、ぴあの聴かせてくれとよ。
        「うただ」の曲が良かったんだってよ。
        ところで、「うただ」って何だ?食えんのか?
                                  ばーい 左之助

       ★ああ〜!上の左之助からお手紙もらっちゃったわあ!嬉し〜い。
        ペンギンちゃんのとこのふたりとウチのふたりとを
        シンクロさせて作った現代モノのお話は
        わたしの大切な宝物です。
        いつもホントにありがとう。
        また一緒に飲み会に行きましょうね。
        次回作も楽しみに待っています♪