Happy Valentine's Day


東京は連日冷え込んで、今日2/14も雪がちらつく程の寒さだ。
ジョシュア剣心は初めての日本の冬を「もうたまんね〜!」と思いながら過ごしていた。
ジョシュアの住んでいたラスベガスは冷え込むといってもここまでは寒くない。
しかも働いていた大きなホテルは一年中快適な温度に保たれているので
薄着でも充分やっていけるのだから、さののボロアパートの
小さなストーブひとつだけの暖房では寒さがこたえる。

そんな寒さの中、ぶ厚いセーターにマフラーをぐるぐる巻きにして、
ジョシュアはひとりで渋谷の街まで出掛けた。
何度か行ったことのあるハンズまでは電車をひとつなので、どうにかこうにかひとりでも行ける。
しかしハンズへ着いても、大勢の女の子たち&カップルがひしめきあっており、
(いつ行ってもハンズはモノスゴイ人なのだ)まるでクリスマスの時のような混みようだった。
今日2/14はバレンタインデーだし、覚悟はしていたけれど、
その人の多さにジョシュアは閉口した。
それに手を引っ張ってくれる長身のさのは今日はいない。
目的のチョコ売り場に到着するのにも一苦労で、着いたら着いたで、
まさにチョコに群がる蟻んこ達…いや女の子達でごった返している。
ただでさえ日本語で買い物をするのにも勇気がいるというのに、この女の子達に混じって
男のオレがチョコを買えるのか?と、ドキドキしているのだ。
売り場の前を行ったり来たり…うろうろすること一時間あまり。
「ええ〜い!」と意を決して、キレイにラッピングされた小箱をひとつ掴むと、
これまた女の子店員に渡す。
「はい!800円です。それに消費税で840円」
ジョシュアはさのに習った千円札を一枚出した。
店員の女の子はチョコをコジャレな紙袋に入れて、お釣りと供に渡してくれた。
「はい。あなたの彼氏は日本人なのかしら?」
思いもかけない言葉にビックリしたジョシュアだったが、あわててうなづく。
「そう♪はい!ハッピーバレンタイン!」と、にっこり微笑まれてしまった。
照れくさくなって、ジョシュアは逃げるようにその女の子だらけのチョコ売り場を離れた。

何のことはない。
ジョシュアもしっかり「女の子」に間違えられているのだった。
薄い茶色の長髪をくくらずに肩に流し、口まで覆ったマフラー、160センチそこそこの身長、
真っ赤なセーターに細身のジーンズ、そして大きなハシバミ色の瞳。
どこを取っても、外人の女の子に間違われても仕方の無い事なのだ。
「やった〜!買えた〜!さの〜!チョコあげるからね〜」と、
さっきまでのウジウジした態度は何処へやら、
「そうだ。さののスキなケンタッキーも買って帰ろう!ワインもだ!
今夜はパーティだ〜♪」
ジョシュアは足取りも軽く、ハンズを後にした。



一方左之助は降り始めた雪をうっとうしく思いながら、
カップルばかりが乗っている車にガソリンを注入する仕事を恨んでいた。
「何だよ!ちっくしょー!オレだって剣心と一緒に街へ繰り出したかったゼー!」
何の考えも無く2/14をシフトに入れた自分を責めた。
だが!いい事もあった。
さののバイト先には高校生の女の子がひとりいるのだが、さっきその女の子から
「これ…相楽クンに…」
と、チョコの小箱をもらっていたのだ。
うつむき加減にそっと差し出されたチョコに、予想もしていなかった左之助は、
「あ!ども!ども!サンキュー♪」と喜んで受け取っていたのだ。
「付き合ってくれなんて言われたらどうしよー?
オレには恋人(しかも男の)がいるなんて言えないなあ…
かわいそうだなあ…どうしたらいいかなあ…」
と、さっきから考えが止まらない。

しかしその女の子は同じこのガソリンスタンドで働いている男の子達全員、
ハゲた店長にさえチョコを贈っていたのを、左之助は知らなかった。




コレまた現代版「さの剣」>「サクセス」よりエピソード
東京の町に慣れないジョシュア…
ハンズは行き慣れた私でさえ、
シーズン中は迷子になりそうですのよ…